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出会いと別れ⑥

 ……結局、南の情報はただのデマだったらしい。  タキとイヅルはもとから別に仲も悪くなかったし、とりたて何もいざこざはなかったんだけど、実力ある奴のことをよく思わない奴もいるようで。 なんだか知らないうちにいろいろうわさが流れていたみたいだ。  実際、一年のレギュラーなんてなかなかなれるもんじゃないから、もともとレギュラー扱いだったイヅルをタキがよく思ってないんじゃないかってみんなが思ってたらしく。そこから、あんなうわさが広がったとか。 「でもなー、ソレばっかりは実力だし。仕方ねぇじゃん?別にイヅルを恨むコトじゃねぇし。自分の力が足りないだけだろ。てゆーかさ、そんなコト言ってる暇あんならその時間無駄だし、練習するよ」 「いいこと言うじゃん、タキ。確かにオマエ、去年よりスパイクのキレが強くなったよな!」  結局3人で腹ごしらえをする事となり向かったファーストフード店。  一人ハンバーガー5個(!)にポテトのLとサラダ。テーブルからはみ出してしまうほどのソレをほおばりながらイヅルとタキが話を進める。 「よく言うよな。お前なんて毎回試合の度に進化しやがって。正直追いつかねぇよ」 「あはは!そんなお世辞いったって、コレはやんねぇよ」  最後のハンバーガーを口に入れて、イヅルが笑う。ちいさくバレたか、と呟いて笑うタキもほんとに楽しそうで。どうやら南の情報は完璧なガセだ。  ……もう2度と南の情報は信用するもんか。  一人心に誓うオレにイヅルが問いかける。 「ヒナ。バレーの話ばっかでつまんない?なんか静かじゃね?」 「いや、そーじゃなくてさ……」 「ほんとになー。イヅルの前だとこんな大人しくなるんだな、ヒナは」  ちゃかすように言われてタキにハンバーガー1個投げつける。サンキューとタキが封を開いて食べ始める。  本日6個目のハンバーガー。  ……どんだけ食うんだ。お前は。  静かに笑うイヅルにも1個投げつけて、俺は最後のひと欠片を口に放り込む。  やっぱりスポーツをやってると違う。お前らとは胃袋が別なんだ。こんなに食えるかっつーの。  心の中では軽く不満を訴えながらも、思ったまんまに口からでた言葉は全く違うもので。 「お前らカッコイイなと思って聞いてたんだよ」 「「…は」」  なんだか自分の弱さを認めちゃえるタキと、努力の結晶を自慢するだけじゃないイヅルの会話を聞いていたら、ほんとに自然と、そんな言葉がでたんだ。  そんな俺の言葉に一瞬、また沈黙。  大口を開けたままのイヅルとタキが次の瞬間、大声で笑いだした。 「あはは、すっげー!イヅル!ヒナって面白いヤツだな」 「はは、だろ?」  なんで笑われてんのか全然わからなかったんだけど、2人同時に爆笑されて、なんだかつられてオレも笑った。  ……どうやら心配するまでもなかったらしい。  イヅルもタキも自然に笑っていて、ファーストフード店を後にした俺らに、寮生のタキもそのまま一緒についてきて、イヅルの部屋の前まできて別れる。 「イヅル、んじゃな」 「おう、また明日部活で」  なんだか少し話し込むイヅルたちをおいて、軽く挨拶をつげた俺は先に部屋の中にはいりこむ。  鞄を下ろして座ろうとした矢先、後ろから声がかかった。 「ヒナ!!また明日な」 「……あ、おう!」  ニコニコ笑うタキが片手を振りながら廊下を去っていく。 「あいつ、ヒナのこと気に入ったみたいだな」  その後ろ姿をぼーっとみていた俺はイヅルの言葉にはっと我に返った。 「え……なにが?」 「いや、だから、ヒナのこと気に入ってたなぁって」  何の気無しに告げられた言葉に、なんだか悪い事をしたわけでもないのにドキリとした。

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