84 / 120
出会いと別れ⑤
◇
長かったHRが終わる。今年のクラス目標なんて。こんなに時間かけて決めたところで誰も見てないわと心の中で思いながら、鐘の音とともにカバンを抱えて教室をでた。
隣のクラスの扉はまだ閉まっていて、HRはまだ終わっていないようだった。
俺は廊下の端に寄り掛かり、それが終わるのを待つ。ガヤガヤとうちのクラスのヤツが俺の前を通り過ぎていった。
ぼーっと携帯をいじってるとふっとそこに影が落ちる。
「!」
「まーたイヅル?仲いいな、ほんとに」
顔をあげるといたのはタキで。
カバンを片手に俺の隣の壁に寄り掛かる。
「っ、ちげーよ!てか、お前こそ人の携帯覗き見すんのやめろよな」
「はは。そりゃそうだ。でも、待ってんだろ?」
「まぁそうだけど……別にタキに関係ないだろ」
なんだかからかわれたようで気分が悪くて。少し突き放したように言ってみる。
そんな俺にタキはそりゃそうだと明るく笑って、正面を向いた。
……やっぱり似ている。
どこか爽やかなところとか。
少しずれてるようなところとか。
尾を引かない、歯切れのいいところとか……
なんだかタキはイヅルに似ていて、ふと顔を見つめるとなんだか変に緊張した。
タキとイヅルは違うのに……
「だけど、なんか気になっちゃうんだよなー」
「え?何が?」
そんな事を考えているといつのまにかこっちを向いていたタキと目が合った。
人懐こそうな優しい顔をしているタキ。容姿はイヅルと全然タイプがちがう。
なのになんだかイヅルに見つめられているような、そんな錯覚に陥る。
その顔が俺を見て、優しく笑った。
「ヒナのこと」
「は?」
ニコニコしたままのタキの顔に、俺はなんだか呆然。
……気になるって。
なんだそれ。意味わかんねぇし。
「なんだよソレ」
「うん。なんか前から気になってはいたんだけど。どこにいてもイヅルは目立つじゃん?でさ、イヅルを見つけて声をかけようとすると、いつもそばに同じやつがいるからさ。あれ?イヅルのそばにいるアイツは誰だろうって。でさ、今日、初めて話してみたら普通にイイやつだったから。早くオレも仲良くなりたくて」
笑顔で笑いかけるタキ。
なんかちょっと恥ずかしかった。
そんなこと……面とむかって言われるのは初めてで。なんて返したらいいのかわからない。
タキの言葉はストレートでちょっと天然で。イヅルと重なって、余計に俺を困惑させる。
「な、ななんだ、ソレ。お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな!」
「恥ずかしい?別にヒナと仲良くなりたいって思っただけだし。変か?」
「変だ!お前って、すっげー変!!」
「あはは、ひでーな、言いすぎ!」
隣で聞こえる笑い声。その屈託のない笑顔をみていると、なんだか自分もおかしくなってきて、つられていつのまにか笑っていた。
それでなんだか変な緊張は消え去って、笑いながら俺たちは今日のHRやクラスのやつらの話をしていたんだ。
「ヒナ!」
気づいたら目の前のクラスのHRは終わっていて。
イヅルがカバンを持って飛び出してきた。
「ゴメン!なーんかすっげー時間がかかってさ」
「別にいーよ。もう終わったんだろ?」
「おう。どうする?いったん外でる?」
「腹減った。なんか食いにいこーぜ」
「はいよ。それはそうと……タキ?なんでヒナと一緒にいんだ?仲良かったっけ?」
一通り言い終えたあと、そういえばとばかりにイヅルがタキのほうを向いて不思議そうに首をかしげた。そういえば昼間、南にあんなこと言われたから、タキのことイヅルには話してなかったんだった。
タキはさっきと同じ笑みのまま、イヅルに言葉を返す。
「俺たち同じクラスになったの。そんで、今席が近いんだよ。なぁ?ヒナ」
「あ、おう。だから仲良くなったんだけど……」
気になる。イヅルの反応が。
南のせいだ。南が変なこと吹き込むから。
急に怒ったりしやしないかと、そっと顔色を伺ってみるけど、予想に反してイヅルは笑っていた。
「そっか。じゃあヒナのことよろしくたのんどかなきゃなー」
「なんだよソレ。子供じゃねぇんだから」
「あはは。そりゃそうだ」
「……怒ってねぇの?」
「は?なんで?」
「だって南がお前ら仲悪いって……」
きょとんとしたように、二人が顔を合わせる。
そうして、一瞬の沈黙のあと、二人一緒に笑い出した。
「あはは!あいつ変なうわさばっか知ってるな」
「ほんとだよな。ヒナ、俺たち仲悪いように見えるか?」
ニコニコ笑いながらタキに問われる。
笑いながら話す姿はどうみても仲のよい友達同士にしか見えない。
「……見えないな」
「だろ?」
再び笑い声が重なった。
ともだちにシェアしよう!