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第一章・2

 髪は、黒。  無造作に掻き上げたパームアッパーで、34歳と言われた年齢より若く見える。  若く見えるのは髪型だけでなく、彫りの深い顔にも張りがあり、小皺ひとつ無い。  背は高く、それに似合った筋肉も発達している。  一言でいえば、イケメン、ナイスガイ、いい男、だ。  そんな哲哉を前にし、玲衣は身をすくませていた。 「よ、よろしくお願いします」 「ようこそ、玲衣。私が今日から、君のオーナーだ」  人の上に立つ人間が持つ、威圧感。  哲哉の第二性は、アルファだった。  対して玲衣は、小柄な体に、細い手足。  まだ幼さの残る可憐な面立ちに、白い肌。  彼を知らない人間が見ても、まずオメガと認識するだろう。  シンプルだが品のよい、広い室内をおどおどと見渡し、玲衣は思った。 (きっと、すごいお金持ちなんだ。この人は)  でなければ、人買いなんかできるはずもない。  玲衣は、父親に売りに出された。  離婚した母の記憶は、ほとんどない。  父はギャンブルにうつつを抜かし、気づけば多額の借金を抱えていた。  彼は、実の息子を売り払い、返済に充てたのだ。  だが、そんな玲衣の境遇は、哲哉には興味のない事だった。  今、彼がここにいる。  私の手の中に、落ちている。  それだけが、全てだった。

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