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第一章・6

 玲衣が、少し怖い、と考える哲哉は、ディナーの時も無口だった。  話すのは、池崎とだけ。 「今日の肉は?」 「五島牛が手に入りましたので。肉質が柔らかです」 「うん。美味い」  それでも玲衣は、誰かと一緒に食事ができる喜びを噛みしめていた。  こんなに分厚いステーキも、お目にかかったことがない。  いつも独りで、食うや食わずの生活をしていた時とは、大違いだ。  それで、少し笑みが生まれた。  哲哉は、その笑みを不思議に感じたが、叱ることはしなかった。 「玲衣、美味しいか?」 「はい。とても、おいしいです」 「君はよく食べて、もう少し体を作った方がいい」 「はい」  この時、初めて玲衣は哲哉にぬくもりを感じた。 (体の心配を、してもらえるなんて)  あとはただ、食事を続けるだけの哲哉だったが、玲衣はその姿に安堵を覚えていた。

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