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第十一章・5

 池崎の運転する車中で、哲哉は心から玲衣に詫びていた。 「私がもっと、しっかりしていれば。怖い思いをさせて、すまなかった」 「いいえ。哲哉さまは、僕を助けに来てくれたじゃないですか」  その言葉に、哲哉はうなだれた。 「実は。一瞬でも、君を疑った自分が恥ずかしい」 「え?」 「玲衣が、私の元から逃げてしまったのではないか、と考えたんだ」  玲衣は微笑んで、哲哉の大きな手に、自分の手のひらを重ねた。 「僕は、哲哉さまから逃げたりしませんよ」 「ありがとう、玲衣」  うなずく玲衣に、今度は池崎が声を掛けた。 「謝らなくてはならないのは、僕だよ。玲衣くん」 「池崎さんが?」 「君が逃げるんじゃないか、と疑ったのは僕も同じさ。服に、GPS端末を付けておいたんだ」 「それで、僕のいる場所が解ったんですね」  だが、だからこそ玲衣をすぐに救いに行けた。  結果オーライです、と言う玲衣は、心底素直な少年だった。  二人の男は、この時心から安堵した。  玲衣は、逃げ出したりするような子ではない。  かと言って、嫌々ながら屋敷にとどまる子でもない。 (おそらく、立ち去る時は堂々と私に言うのだろう)  そう、哲哉は噛みしめていた。

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