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第十一章・6
屋敷に戻り、シャワーを浴びてさっぱりとした玲衣を、哲哉は部屋に呼んだ。
(父さんに迫られて嫌な思いをしたから、慰めてくださるのかな?)
しかし、哲哉の部屋にはなぜか池崎もいる。
不思議に思いながらソファに掛けると、哲哉が口を開いた。
「私はこれまで、身勝手に生きて来た。人を買い、玩具にし、あげくには逃げられて来た」
哲哉の脳裏には、玲衣の父親の言葉がまだこびりついていた。
『親が。親が自分の子どもを、どう使おうと勝手だろぉ!』
下衆と罵った男と同類だった、自分。
それを、思い知らされたのだ。
「池崎。君は人を使って、逃げたモデルの子たちが今どうしているか、突き止めてくれ」
「どうなさるおつもりですか?」
「もし彼らが、私が行った罪によって不自由な生活をしているのなら、償いたい」
「哲哉さま」
池崎は、心が晴れる思いだった。
心を閉ざし、頑なだった主人。
その人が、前を向いた。
自分の犯した罪を認め、償うと言ったのだ。
「承知しました」
池崎は短く言うと、哲哉の部屋を後にした。
もう夜だが、今からでも与えられた仕事を始めるつもりだった。
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