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第3話

その日の夕食の後。  両親に健康診断の結果を伝えるタイミングを見計らっていると、皿洗いを終えた母が「そういえば、そろそろ健康診断の結果が返ってきたんじゃないの?」と切り出してきた。 「結果は鞄の中にあるからとってくるよ」  と言って自室に戻った。  緊張から、口から飛び出してくるのではないかと錯覚するほどに心臓がバクバクと跳ねる。  オメガであることを告げたら、父と母はどんな反応をするのだろうか。  拓人に嘘を吐いたように両親にもベータだったと偽りたい気持ちでいっぱいになった。  けれど、今後の医療費などの面では両親を頼らざるを得ないので、その案は即刻頭の中から追い出した。  鞄から健康診断結果票の入った封筒を取り出し、重い足取りでリビングへと戻る。  食卓には3人分のお茶が用意されていて、ソファにいた父もいつの間にか食卓の方へ移動していた。 「封筒を持ってくるだけで随分時間がかかったじゃない。あら、蓮ったら先に1人で確認したのね」  封の開いた封筒を確認した母が呆れたようにそう言いながら手を伸ばしてきたので、覚悟を決めて手渡すと予想外に重い封筒を受け取った母が首を傾げた。  中から健康診断結果票と同封されていたプリントや冊子を取り出してテーブルの上に並べていった。  封筒の中から出てきたそれらを確認した両親の顔色がみるみるうちに悪くなる。  父は眼鏡をずらし右手で目頭を押さえ、母は両手で口元を覆った。  結果に落胆しているのだろう。  そんな両親をなるべく直視しないように、ぼくは静かに椅子に腰を下ろした。 「オメガだったのか……」  重い空気の中、最初に口を開いたのは父だった。  ベータの両親からアルファやオメガの子供が生まれる確率は全くないわけではないが、それでも宝くじが当たる確率の方が高いと言われている。  だから、まさか自分の息子がオメガであるとは夢にも思っていなかったのだろう。  しかも、普通のオメガのように華やかな容姿をぼくは持っていない。  成績だけはアルファと肩を並べる、見た目はパッとしない地味なベータといった印象を与えるぼくが、まさかオメガの診断を下されるなんて夢にも思っていなかったのだと思う。  ぼくだっていまだに信じられないくらいなのだ。 「──この診断結果はどのくらい正確なものなんだ?」  父も現実から目を逸らしたかったのか、そんな言葉を発した。  そんな父の発言に便乗し母が何かの間違えかもしれないと言い出したので、後日専門のクリニックで再検査をすることになった。    再検査をしてもぼくがオメガであるという結果は覆ることはなかった。  唯一の救いといえば、一般的なオメガよりもフェロモンの数値が低いことと、子宮が未成熟なため初めての発情期を迎えるのは通常のオメガよりも遅くなるだろうという医者が言っていた。  オメガであることには変わりはない。  それからというもの、両親はぼくに腫れ物を扱うかのように接した。  接し方が分からなかったのか、息子がオメガであることが受け入れられなかったのかはぼくにはわからなかった。

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