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第13話

「ところでさ、拓人は彼女さんとは昼休みの約束なかったの?」  料理に箸をつける前にぼくは、ずっと気になっていたことを拓人に問う。  拓人は当たり前のようにぼくのことを優先しているが、本来ならば優先されるべきなのはぼくではない。その辺は弁えられる人間だろうと自分に言い聞かせる。  一方、拓人はぼくのそんな問いが意外とでも言いたげだ。 「千寿さんのこと? あの人のことなら大丈夫だよ。風邪で休んでいて連絡が取れなかった幼馴染が登校してきたからゆっくり話がしたいって言ったら『じゃあ、今日のお昼休みはその子と過ごしたら?』って言ってたし」  拓人が、ほんのりと声色を変えて話すものだから思わず吹き出しそうになったのを必死に堪える。ぼくは真剣に話していたのに。  そして、噂でしか聞いたことのない拓人に相応しい完璧なオメガの懐の深さを見せつけられて、ぼくは改めて自分の器が自分で想像していたよりも小さかったことに落胆する。 「まだ付き合いたてなんじゃないの?」 「んー、まあ。それより、蓮がもうその話を知ってる方が俺はびっくりだよ。蓮が早退した日の話だよ」 「ぼくが保健室にいく前……昼休みの終わりには学年中に広がってたから」 「この学校って野生のパパラッチがいたりするのかな……」 「それだけ、拓人が注目されてるってことだよ。だって、その情報元の人は告白現場まで見に行ってたみたいだからね。拓人にしてみたらいい気分の話ではないかもしれないけど……」 「確かにいい気分にはなれないな。俺は別に目立ちたいわけでも、注目されていわけでもない」 「入学式で新入生代表の挨拶してたし、頭も運動神経も良くて、さらには顔もいいから気になっちゃう気持ちもぼくはわからなくもないんだけどね……。拓人と幼馴染じゃなかったらぼくも多分みんなと一緒になって、あの永井拓人ってどんな人なんだろうってなってたと思うよ」  拓人は難しい顔をしながらおにぎりを頬張った。拓人は自分が他人の視線や関心を集めやすいということを多分自覚している。けれど、自覚しているかと言ってその事に納得するかどうかは別の話なのだ。  このままだと、拓人がだんまりを決め込んだまま昼休みが終わりそうだったので、ぼくは話題を変える事にした。 「そういえば拓人、ぼくと話したいことがあったんじゃないの?」  そう言ってからぼくは煮物に入っていた筍を口に運んだ。シャキシャキとした歯応えが心地いい。 「そうだった。これからは火曜日と木曜日しか一緒に昼休みを過ごせないって言う話をしたかったんだ」 「もう一緒に昼休みは過ごせないって言われるかと思ってたよ。えっと、彼女さん……赤松先輩だよね。一緒に過ごすってなると思ってたから」 「うん。だから月曜日と水曜日と金曜日は千寿さんと昼休みの約束がある」  拓人は申し訳なさそうにそういうが……。 「付き合いだしたら、普通は毎日一緒に昼休み過ごすんじゃないの? 学年だって違うし」 「千寿さん、毎週火曜日は吹奏楽部のメンバーと昼休みミーティングがあるらしいし、木曜日は学食のスペシャルデザートデーだから友達と食べるって言ってた」  ぼくが想像していたカップル像とはかけ離れていたが、それで2人がいいのならいっか……とぼくは拓人と過ごす時間が無くならなかったことに胸を撫で下ろした。

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