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第14話
昼休みが終わり教室に戻ると、何やら興味津々といった視線が向けられる。この感じは初めてではない。
高校に入学したばかりの頃にも、ぼくが拓人と授業中以外は一緒にいたせいで、こんな視線を向けられていた。
今回は、拓人に恋人ができたのにどうしてお前が一緒に昼休みを過ごしているんだ、というところだろう。拓人の恋人にもファンが多いので、今後も拓人の隣にいようものならより一層こう言う視線に晒されるのかと思うと気が重くなった。
だからといって、ぼくが未成熟なオメガでいられる間は拓人から離れるつもりはない。
そんな決心を心の中で決めると、いつも関口と一緒にいる日下部が近づいてきた。
「篠原ちゃん! お帰りなさいまし!」
「え、うん。ただいま?」
よく分からない日下部のテンションにぼくがどう対応したものかと、考えあぐねていると後ろから現れた関口が日下部の頭を思い切りはたいた。
目の前で繰り広げられている状況に理解が追いつかず目を白黒させていると、関口と目があった。
「悪いな、篠原。なんか変なテンションで絡んじまって……」
「ううん。大丈夫……、だけど、彼のそのテンションはなんなの?」
いつの間にか関口に首根っこを掴まれていた日下部に視線を向けると、なんだか締まりのない顔をしていた。
「そりゃ、学校のマドンナを射止めた我らがホープ永井拓人が、昼休みに恋人を放って幼馴染を連れて行ったら何を話したか気になっちゃうっしょ!」
教室内が静かになりクラスメイトたちがこちらの様子を伺っている。やはり、ぼくが想像してた通り拓人が今日、ぼくを昼休みに誘ったわけが気になるみたいだ。
「拓人は恋人を放っておくような人間じゃないよ」
「ほほーん。じゃあどんな理由で永井は君を迎えに来たと言うのだね?」
日下部はドラマに出てくる刑事のような口調でそう言った。しかし、その声色にぼくを攻め立てる要素はなくどちらかと言えば好奇心が滲み出ている。
彼の問いにどう答えるか、水を打ったように静まり返えり耳をすませる教室の方がぼくにとっては緊張する原因だった。
「ぼくが休んでる間、連絡取れなかったのを心配されただけだよ。それに、ぼくを誘ったらって赤松先輩が言ってくれたみたいだし」
少し考えてから拓人が攻められないために発した言葉は、意図せず赤松先輩の株も上げたらしい。
「赤松先輩、彼氏の友人にまで気を回せるとか女神じゃん。で? 他に何か話しませんでしたのん? 赤松先輩とはいつ知り合ったとか、どんなおデートをするとか、番になるご予定とか……」
日下部はさらに怒涛の勢いで踏み込んだ質問を投げかけてきた。
しかもその内容はぼくには答えられないものばかりだったが、その質問攻めは関口の右手によって止められる。
「そういうデリケートな問題を面白おかしく聞き出すのは良くない。相手の気持ちも考えろ」
口を塞がれたことに対して日下部はもがもがふがふがと抗議するが、関口に窘められるとすぐに大人しくなった。これ以上暴れることは無いと思ったらしく関口が日下部から手を離す。
「なんか、ごめん……」
「ぼくは平気。だけど、拓人も赤松先輩はどう思うか分からないから下手に騒ぐのはやめた方がいいと思う。付き合ってるっていう情報がすぐに広がったことに関しても渋い顔をしてたし……」
ぼくの発言で教室の空気が重くなる。きっと聞き耳を立ててる生徒の中にはぼくに対して何様だよと反感を持つ人もいただろう。
誰も何も喋ってはいないが、視線だけはちくちくと刺さる。
「じゃあこの話はおしまいだ。別に、永井も赤松先輩も注目されたくて付き合ってるんじゃないだろうし、外野がわちゃわちゃ騒ぐ内容でもないしな」
関口がそう言うと、まるで魔法のように教室中に張り巡らされていた緊張の糸が解けていく。
ぼくが言ったら角が立ちそうな言葉も、関口が代弁してくれたおかげでほとんどの生徒が納得したようだった。その場を治めてくれたことに「ありがとう」と言うと、関口からは「おう」と返ってきた。
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