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第41話

「苦手な物があれば、自由に残していいから。遠慮せずに」 「う、うん...なんか食べた事ない物ばっかりで」 狼狽えてしまう俺。 知り合って間も無い頃に、中庭で脚を崩し、ハンバーガーを頬張っていた俊也とは思えない。 姿勢を正し、優雅にナイフとフォークを使いこなし、口に運ぶ。 気品溢れる、その姿に、やっぱり、俊也は優れたαなんだ、と気づかされる。 何処かのご子息かなにか、なのかも...。 俺はごくごく平凡な会社員の父とパートで働く母、本当に平凡で有り触れた家庭。 エスカルゴと奮闘していたら、フォークを落としてしまい、音を立て、床に転がった。 恥ずかしくて、逃げ出したくなる。 「気にしなくていいよ。貸して?」 俊也はエスカルゴの皿を取ると、全て食べやすいように殻から剥いてくれた。 その間に、笑顔の坂口さんが新たなフォークを差し出してくれる。 「す、すみません...落としてしまったし、音を立てて....」 「構いませんよ。ここはお食事を楽しむ場所ですから、あまりかしこまらなくて宜しいですよ」 俺の心中を悟ったのか、にっこり坂口さんが優しくそう言ってくれ、向かい側の俊也を見ると、俊也も口角を上げ、微笑んでくれた。 「気楽にしていていいよ、樹。迷子にならないでいい。すぐ傍には俺がいるから」 「....うん。つい....場違いな感じがしてて....」 俊也が声を上げ、笑った。 「それは俺の方だよ。こんな金髪でさ、派手な奴。俺の方がよっぽど場違いだし、目立ってるよ」 ....確かにその遠りかもしれない。 でも、全く気にせず、たまに会話を挟んだり、夜景を見たりしながら、食事を嗜む俊也の姿はなんだか眩しかった。

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