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第53話
夕飯を食べ終えて、俺は読みかけだった、俊也から借り、俊也と一緒に観た映画の原作の小説を涼太に渡した。
「ありがと、樹」
「....うん」
両手で小説を抱き、嬉しそうな笑顔の涼太。
複雑な気持ちだった。
結構、分厚くて、まだ読んでいる最中だったし、なにより、俊也と一緒に観た映画の原作で、俊也は俺の為に借りてきてくれたもの、と思い込んでた。
それに、涼太はあの映画、つまらないと思っていたけど...俊也があの映画が好きだと悟ったから、読みたくなったのかもしれない。
重い足取りで俺は中庭まで歩いた。
ベンチに座り、膝を抱えた。
見上げると大きな月が見える。
満月かな、と思いきや、少し欠けていた。
「樹」
名前を呼ばれ、顔を向けると、笑顔の俊也が向かってきて、隣に座った。
「....満月か」
「ううん。俺も最初、そう思ったけど、ちょっと欠けてる」
まるで、俺みたい。
真ん丸に輝けない月。
「あー、マジだ。でも、別にいいけど。月ってさ、威圧感あるし、みんな、月ばかり見て、星に気づかないんだよな」
「....確かにそうかも...満月だと特に。満月が綺麗だから、星、見ない」
「俺はさ、星の方が好きだから。でも、月がいてくれるから、星の良さに気づくのかもな、月には感謝するけどさ」
そういえば、ラブホテルの最上階の部屋の露天風呂で、俊也は月ではなく、星が見えないと残念がってたのを思い出した。
「これ」
不意に、俊也からなにやら、包みを差し出され、受け取った。
熊やうさぎの可愛いプリント、でも。
「....重たい。なに?」
「後で開けて」
「....うん」
ふんわりとした俊也の笑顔を見つめた。
俊也は再び、夜空を仰いだ。
「俊也」
「うん?」
「....昨夜はありがとう。凄く楽しかった」
俊也が満面の笑みになった。
「俺も。めちゃくちゃ楽しかった。多分さ、今までで一番、楽しい夜だったかも」
眩しい俊也の笑顔。
嬉しいはずなのに、なんだろう...何故か、遠く感じる。
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