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第73話

ピアノの近くの警備員と何かを話す俊也を眺めていると、俊也がグランドピアノを開き、人差し指で鍵盤を押した。 誰も気にはとめてない。 極わずかな人が、大丈夫?みたいな怪訝な眼差しで俊也を見て、去っていく。 椅子を引き、俊也が座った。 暫くはなにか、イントロみたい。もしかしたら、俊也のオリジナルなのかな、と思った。 暫くすると、俊也は姿勢を正し、両手の長い指がまるで華麗に軽やかに鍵盤で踊るかのように音を鳴らしていく。 クラシックから、次第に曲調が変わり、先週、俺たちが歌った曲たちを上手に、また丁寧に、俊也はメドレーにして、弾き始め。 その美しく、たまに迫力のある音色と旋律に、散り散りに歩いていたお客さんが立ち止まっていく。 気がつけば、ピアノを弾く、俊也の周りには人だかりが出来ていて。 中にはスマホで動画を撮っている人までいた。 「....凄い」 俺だけじゃない、涼太も、豊も、俊也が弾くピアノの音色の素晴らしさに目を見開いた。 俊也は微笑みながら、楽しそうに、俺たちが先日、散々歌いまくった曲をメドレーで繋いでいく。 「覚えてたのかな、俺たちが歌ってた曲」 「耳コピ、て奴なのかな?」 俊也がアレンジを加え、ラストを弾き終えると、俊也の周りの人達はみんな笑顔で。拍手喝采に包まれた。 呆気に取られた様子の俊也は立ち上がると、小さくお辞儀をして、苦笑しながら小走りで俺たちのところに戻ってきた。 「びっくりしたー、気づいたら、めっちゃ人いるんだもん」 「びっくりしたのは俺たちの方だけど」 豊が苦笑し、涼太も何度も頷いた。 「びっくりした!凄いね、覚えてたんだ、俺たちが歌った曲」 「あ、うん。なんか思い出しながらとか...」 と、不意に。 わらわらと、おばちゃんや中高生とかが俊也に笑顔で歩み寄ってきた。 「凄く上手ね、いずれは音大に行くの?」 「リクエストしていいですか?」 「めっちゃ、感動しました」 あれよあれよと次々に俊也は話しかけられ、ひたすら苦笑いしている。 「助けてあげないと、身動き取れないね、俊也」 涼太が笑った。

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