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第72話

マグカップを持ち、不意に浮かんだ。 ....もしかしたら、人魚姫は俊也の方だったのかもしれない。 泡になりそうなのは俊也だったのかもしれない....。 俊也は俺だって思っているけど....。 「樹」 「なに?俊也」 「今度の休みさ、ショッピング行かない?」 「ショッピング?」 「うん。前にさ、樹の服を一緒に選ぼう、て話し、思い出して」 「....涼太と豊も一緒でもいい?」 途端、俊也が丸い目になった。 「....樹がそうしたいなら...本当は二人が良かったけど」 「ごめん、なんかね、ちょっと気になって」 涼太と豊。 カラオケのとき、涼太、なんとなく豊を意識してるように見えたから...。 「まあ、時間はたっぷりあるし、また二人で行く機会はあるか」 「うん」 マグカップを片手に、俊也に微笑むと、俊也も優しい笑顔をくれた。 いざ、二人を誘ってみたら。 「なんで俺たちも!?」 「二人で行けばいいのに」 涼太にも豊にもそれぞれ、そう言われたけど...。 そして、土曜日。 みんなでショッピングモールに行った。 ショッピングモールが初めてらしい俊也は珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡し、不意に。 入り口付近に設置された、グランドピアノに目を奪われていた。 「ピアノがある。展示品?」 「違うよ。自由に弾いていいみたい。詳しくわからないけど」 「確か、1時間だったか、なんか、1人当たり、弾いてもいい時間は決まってるとか聞いた事あるな」 豊が遠巻きにピアノを見ながら言う。 「....へえ」 「弾いてみたら?俊也。聴いてみたい、俊也のピアノ」 「俊也、ピアノ弾けるんだ?」 並んで立っている涼太と豊が驚いた顔を見せた。 「ずっと家に篭っていたし、中学のとき。昔から習ってはいたけど...久しぶりに弾いてみたいかも」 そうして、俊也はまあまあ人通りはあるけど、通り過ぎていく人達の間を抜け、金髪の髪を靡かせながら、グランドピアノに向かっていった。

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