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第99話

「ほら、樹」 食堂での夕飯の時間。 隣に座る俊也が変わらず、自分の皿にある、春巻きを一つ、俺の皿に移してくれた。 その変わらない、穏やかな瞳を見つめる。 「どうした?樹」 「え、う、ううん。美味しそうだね、いただきます」 俊也の笑顔に少し安堵し、箸を持った。 俊也、て、つくづく大変なんだな、て今更ながら痛感する。 たった16で、ううん、中学の時、もしかしたら、産まれた時には将来を勝手に親に決められていて、きっと自由なんてものは無くって....。 ふと、俺は箸を止めた。 俺ができること....。 俺が、俊也を自由にしたい。 この日、俺は自分に誓った。 一度、部屋に戻り、シャワーを浴びた。 「....緊張するな」 だけど、全てを俊也に任せ切りにはさせたくない。 俺、俊也の彼氏になったんだ、おんぶにだっこ、なんて、嫌だ。 覚悟を決め、廊下を歩き、一つの扉の前に立ち尽くす。 一度、深呼吸をしてから、ノックをした。 「どちら様....」 微かに開いたドアから遥斗が顔を覗かせた。 至近距離で初めて見たけれど、....整えられた黒髪と形のいい漆黒の瞳。 薄い唇。 綺麗な人だと思った。 「....なんだ。誰かと思ったら。入ったら?」 緊張が収まらない中、あっさりと室内に招かれた。 何処か無機質な部屋を見渡した。 「話しがあって来たんだよね?」 ごく、と喉を鳴らして切り出した。 「....俊也と番にはさせませんから」 一瞬、気の抜けたような顔で、真剣に言い放った俺を見つめて.... 「....コーヒーでも飲む?実家から丁度、いい豆が送られてきたんだ」 「話し、聞いてました?俺、俊也と....」 バン、と遥斗は俺をドアに押しやり、背中が扉に強打された。 間近で遥斗は俺を見下ろした。 「好きで俺があいつと番になりたいと思ってんの?選ばれたんだよ、IQの高い子供が産まれる確率だとかでさ。そんなにあいつが好きならお前がどうにかしろよ」 怒りの中に切なさを感じる強い瞳.... そうか.... この人も...俊也と同じなんだ。 俊也と子供を作らないといけない、無理やりそう言い聞かせられて.... 自由な恋愛は許されない....。

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