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涼太side

二階建ての一軒家の実家で暫く立ち尽くした。 父さんが帰って来てはない事、いっその事、長期出張で居ない事を願った。 チャイムを鳴らすと出迎えてくれたのは母だった。 「おかえりなさい、涼太」 「ただいま、母さん」 玄関を上がると、俺の帰宅を待ち、用意していてくれたんだろう、母の手料理の匂い...。 「お風呂、入るでしょ、すぐに追い炊きにするから、荷物を置いてらっしゃい」 にこやかな笑顔の母に、うん、と頷き、久しぶりに実家の自室。 壁際のスイッチを押すと、勉強机と端にはシングルのベッド、中央には小さなテーブル。 子供の頃から中学まで、樹や豊と過ごした記憶、父に乱暴な事をされていた記憶とが蘇る。 母は何も知らない...。 仕事をしている多忙な母の隙を見て、父は中学までは見える部分に跡は残さないよう、手を上げ、オメガの判定を受けた中学からは嫌々ながら抱かれた。 身震いしながら、慌てて、持っていたボストンバッグを二つ、斜め掛けしていたバッグも置き、ボストンバッグから着替えを探す。 良かった...父さんが居ない。 そうして、部屋を出て、リビングへと戻った。 一瞬でガラガラと音を立て、目の前の現実に引き戻される...。 「涼太、久しぶりだな、学校は上手くいってるか」 スーツ姿の父が帰宅し、薄っぺらい笑顔で問う。 「...はい」 「ほら、涼太、早くお風呂行ってらっしゃい、冷めないうちに」 母に唆され、浴室へ向かった。 体を流し、母が溜めていてくれた湯船に浸かりながら、今日は母が居るんだし、きっと大丈夫だ、と必死に自分に言い聞かせた。

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