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君がいるから

「....嬉しい」 「ん?」 恥ずかしい。恥ずかしいけど...伝えたい。 「....電話をくれて、すっごく嬉しい...顔が熱いし、その、照れくさいけど...」 俊也は静かに俺の声を、話しを聞いてくれている...。 「ちゃんと言葉にしなきゃ。伝えなきゃ。 素直に、自分なりでいいから、伝えないといつか後悔しそうで。 俊也が気づかせてくれたから....だから」 照れくさいけど凄く。自分の気持ちを伝える、て勇気がいるけど。 俊也、しばらく黙っていて、不安になった。 「....俺が気づかせた?」 「うん...俊也は気づいてないの?」 「...なにを?」 「俊也が精一杯、頑張ってたんだな、とか、それに涼太や豊すら、俊也は気づかせた、だから2人も変われた。涼太に俺、気遣って本音、話せないで、俊也は指摘してくれた。 本当に友達と言えるの?て俊也は言葉にして伝えてくれた、覚えてない...?」 また俊也はしばらく黙ってる。 「俊也がいてくれたから、出逢えたから、俺、涼太や豊とも親友になれたんだよ」 沈黙の後、俊也は微かに笑った。 「....俺、樹の笑顔が見たい、それだけだったけど...でも俺も今の涼太や豊、好きだよ。俺、やっと友達、出来た気がして」 あ、なんだ、この感情。 泣きそうで、でも少しなんか、苛つく。 俊也は...自分に自信なんてなかったんだ。 余裕ぶってただけで、強がって、どうして俺、俊也の孤独に気づいてあげなかったんだ....? いつも、いつも....月より星が好きだって、空を見上げて星を探してたのに。 ちゃんと言葉にして、尋ねなかった。 どうして星が好きなのか、星を探してるのか、聞かなかった...。 ああ、星も綺麗だしな、てただそんな単純にそう思ってた。 星に...なりたかったのかな、あの子に。自殺した女の子に申し訳なくて、謝りたくて、だから、俊也は星を探していた...。きっと。 あの1つの星がその子の儚い命みたいに...思っていたのかもしれない。 俺よりもずっとずっと俊也は純粋だったんだ。 書籍が好きで、小説や色んな本が大好きでクラシックが好きな俊也...。 今更、気づくなんて...。 「....ごめん、俊也」 「まーた、謝る」 「....違う。俊也に甘えてばかりいた...。俊也を俺...凄く好きなのに、俊也の内側に気づいてあげれてなかった....」 「....俺の内側?」 「俊也は...ずっと、ずっと寂しかったんだね...俺なんかより、ずっと...」 なんとなく、俊也ははにかんでる、そんな気がする。 「....さっきさ。久しぶりにピアノ弾いててさ」 「....うん」 「....ああ、樹の声が聞きたい、樹に会いたい、て思った。ピアノが、さ、凄く楽しくて、ピアノを弾くと笑顔になるんだよね...」 ショッピングモールでまだ金髪の派手な付き合い初めて間もない頃の俊也が、ピアノを弾いていた、あの姿、あの音色、俊也の楽しそうな笑顔が脳裏に浮かんだ。 ああ、ピアノを弾くのが好きなんだ、てそう思った。 「樹のお陰だよ」 「....俺の?」 思わずきょとんとなった。 「俺、カラオケ、知らなかったけど...樹がきっかけをくれたじゃん?樹の歌や涼太の歌や豊の歌や、樹は嬉しそうに聴いて、そして、歌ってて、微笑みながら」 俊也の優しい笑顔が浮かぶ。そんな声...。 嬉しそうな...俊也の声。 「樹のそんな笑顔がピアノを楽しくさせてくれた」 わ、なんだろう。体が浮くみたいな、俊也のその嬉しい、て気持ちが凄く伝わって、俺はなんだろう、これ、嬉しい...泣きそうなくらいに、嬉しい。言葉にならない...。 「俺、ピアノ、やってみたいな、挑戦したいな、て、思う。豊にも、言われた、あの流星群を見に行ったとき、涼太にも言われたかな、ショッピングモールで...ピンと来なかったんだけど...。俺のピアノで笑顔にさせる、て治療に似てるとか...よくわからないんだけど、樹も俺のピアノ好きだって言ってくれたな、て、思い出したり...」 俊也の優しい気持ちを汲み取りたい。 俊也の思いを吸収したくて、俊也の話しを遮らず、ただただ大好きな俊也の話しを聞いた。 「まだ父さんにも話してはいないんだけど...なんて言われるか、わからないけど。俺には医者は無理だから。亡くなった祖父に言われて...昔はよくわからなかったんだけど...ああ、俺には確かに無理かもしれない。弱いから俺」 「弱くなんかないよ...強いよ、俊也...ずっと孤独だったのに、頑張ってたんじゃん...誰にも愚痴すら言わずに....」 「んー、そうかな、わからないけど。自分のことはあんまり」 俊也が笑った。 「でも、俺、樹に出逢えて良かったな。涼太や豊とも、なんか、友達になれた気がして、嬉しいな、樹のお陰、全部」 涙が...勝手に涙が頬を転がっていく。 悲しい訳じゃないのに。 「....友達、だよ、俊也。俊也にとって、涼太も豊も、友達だよ。涼太も豊もそう、思ってる、よ」 「....本当に?」 涙が...ダメだ、泣いてるなんて言えない。 不安そうなそんな声色の俊也に、泣いてるだなんて、言えない...。 「....俊也」 「うん」 「ありがとう。生きていてくれて生まれてきてくれて、俺と出逢ってくれて、ありがとう。俺、俊也に救われた、から、俊也も、俊也のピアノも大好きだよ。色んな俊也が好き、だよ。すっごく好き」 恥ずかしくなんてない。 多分、俊也は嬉しい、て思ってくれる、喜んでくれる。そんな気がする。 「....ありがとう、樹。なんか俺、楽になった、なんだろう、俺も生きていてよかったな、もう終わらせるはずだったんだけど...良かったな、生きてて、良かった。あの子には申し訳なかったけど...。 もし、さ、引き合わせてくれたんだとしたら、いつか、いずれみんな死んじゃう、仕方ないけどさ、ちゃんと伝えたい。謝りたい、あの子にもありがとう、て伝えれたら、いいな...」 俊也ももしかしたら...泣いているのかな。 笑っているのに泣いてるのかな...。 「....早く、会いたい」 「俺も」 お互いに多分、同じ気持ちだ。俊也が笑ったら俺も笑って。 今、俺たちは一緒にはにかんでる。 「豊や涼太、海やプールやお祭りだとか行きたい、て言ってたね。涼太...心配だけど...行きたいね、みんなで、その...2人きりでも」 語尾はなんかまた恥ずかしくて、照れくさいけど。 俊也と手を繋ぎたい。 俊也の笑顔と並んで歩きたい。 「行きたい、俺も」 俊也がはにかんでるのが伝わって、とても嬉しい。温かい気持ちで溢れてた。 あの俊也のピアノの音色みたいに身体がぽかぽか温かい。 初めてのこの感覚、俊也が好きだ、て伝えきれないくらいに身体中を駆け巡ってた。

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