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涼太side

しばらく湯船から上がれず、湯船の中で膝を抱え、ただただぼんやりしていた。 ああ、豊と付き合い始めたのに、な。 父さんに知られるのが怖い。 母さんに知られるのが怖い。 豊は頼れ、て言ってくれた。 カラオケボックスで笑うな、て抱き締めてくれた。 「....変なの」 何故か、笑ってしまう。 とても真面目で正直な、馬鹿が付くくらいに素直で正直な豊が俺のせいで....穢れてしまう。 ああ、違うや。俺がヤケクソで豊と体を重ねた時点で豊を汚したんだった...。 「....仕方ない、よね」 もし、また、父さんに抱かれたら、嫌だけど、母さんに気づかれないように、豊にも樹にも、俊也にも気づかれないようにしなきゃ。 なるべく声も出さないように、間違っても喘いだりしないように...どうせまた父さんに手で口を塞がれるかな。大丈夫、きっと...。 そうして、ドライヤーを掛けていても、やたら時間が掛かって、長風呂みたいになった。 「....なに今更!バッカじゃないの、俺」 鏡の中の自分に笑う。 なにを今更。ドライヤーを持つ手が震えてんの?変なの。 パジャマはなんか、違う、着たくなくて、Tシャツとデニムで浴室を出たら...目を疑った。 「....豊」 リビングに豊がいたから。 「もう、涼太ったら!豊くんと約束してたんでしょ?ずっと待っててくれたのよ、豊くん」 母さんがそう言って笑った。ごくごく普通に呆れたように。 約束なんて...してた?してない...のに。 父さんを....見れない。どんな顔して、豊の傍で俺を見ているのか、見たくない。 豊しか、見れない...。 「随分、長風呂だったみたいだな、のぼせなかったか?」 「涼太も麦茶でも飲む?」 「あ、すみません、俺、実は今、涼太とお付き合いさせていただいてて」 ....どうして。 笑顔で豊は母さんや父さんにそう言うの。 嬉しい、けど、でも...。父さんがいるんだけど。 「まあ、そうなの!?涼太、なんにも言わないし、連絡すら寄越さないものだから!良かったじゃない、涼太」 母さんは...嬉しそうに、父さんは、父さんは....。どんな顔しているんだろう。 「....ああ、そうだな」 乾いた声。少し笑ってる、けど、皮肉みたいな嘲笑うみたいな。 侮辱みたいなそんな、いつもの父さんの笑い方。 もう慣れたはずだったのに、鳥肌が...。 体が冷えていく。湯船で温まったはずの体が冷たい....。 「涼太、今日、俺の友達とかとカラオケ行く予定で、あ、でもうちの両親にも会わせたい、ていうか、ちょっと散歩でもしてからというか」 小2の頃から、父さんも母さんも豊を知っている。 俺たちは幼馴染だから...。 母さんは、嬉しそうだ。 父さんは...どんな気持ちなのかな。 「ありがとうね、豊くん。豊くんなら安心だわ。しっかりしていたもの、昔から」 「ありがとうございます」 「いってらっしゃい、涼太」 母さんの優しい、嬉しさを含んだ声... 豊が微笑んだ。 俺は...どんな顔をしたらいいかわからない。 ただ、豊の優しい真っ直ぐな瞳を見つめるだけだ。

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