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デートって...
「でもさ、良かったね、映画」
不意に俊也がにこ、と微笑み、俺を見つめてそう言った。
「え....あ、うん....」
....映画館のあの独特の空間、時折、スクリーンの光はあるけど、ほぼ暗闇のあの空間につい...
貝殻繋ぎで結ばれた俊也の長い指や手のひらや。
耳に口元を寄せられて感想だとか言われたり尋ねられ、
耳に掛かる俊也の囁きの小さな風みたいな息だとか、めちゃくちゃ意識してしまって、内容が殆どといっていいくらい....入って来なくて。
しかも....セックスしたい、なんて思ってしまって....。
「....どうした?樹。イマイチだった?」
思い出して恥ずかしくて、口元を抑えてたら俊也に顔を覗き込まれた。
「う、ううん、な、なんでも、ない....」
俊也、不思議そうに首傾げてる....改めて考えてみたら、は、恥ずかしい、な....。
カフェでミルクティー、ストローで啜りながら....映画館とは違う、明るい日差しが差し込む店内でよくよく考えたら...。
「大丈夫?映画館からなんか変じゃない?もじもじして...体調悪い?大丈夫?」
うわ、....俊也、首傾げながら...。
「そんなに緊張しないでよ」
ば、バレてる、のか....緊張していたこと。
さすがに....したい、が、セックスしたい、の意味だとは悟られてはなさそうだけど...良かった。
と、思ったら、俊也が肩を抱き引き寄せられた。
ことん、と俊也の肩に頭を置いて....。
「どうする?次。何処か行きたいとこある?」
うわ....俊也のエスコート、逐一、ドキドキする、けど、嫌じゃない、な....。
落ち着く、凄く....。
「う、ん....」
なんだか俺の行きたいところばかりだな....。
チラ、と俊也を盗み見みみたいに見上げたら、目が合った。
「ん?」
優しい眼差し....。
口元を綻ばせ、俺を見つめていてくれてる....。
「....俊也は...ないの?何処か、行きたいところ、とか...」
「俺?んー...そうだな...楽譜やレコードとかレコーダーの針とか、本とか欲しい、けど...ネットでも買えるしな....」
あ、そうか...俊也、中学時代、あの事件以来、学校に行かせて貰えもせず、殆ど自宅にいたんだっけ...。
ショッピングモールやカラオケすら知らなかった....。
ラブホテル、の意味すらも。
確かにLOVE、て恋とか愛、て意味ではあるけど....。
「....本屋とか、行ってみる?」
「....本屋?行きたいかも。面白い本、あるといいな...」
あ、俊也が笑った。
嬉しそうに...笑ってる。
俺も、嬉しい、なんだか、暖かい気持ちだ。
「俺も、なんかいいのあれば読もうかなあ」
肩を借りて、寄り添い、見つめ合い、そうして一緒に微笑んで。
穏やかな愛しい時間に包まれて、体がぽかぽかして。
楽しいな。
デート、て楽しいな...。
肩を竦めて微笑んだら、瞼を細めた俊也の無邪気で眩しい笑顔に照らされた。
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