125 / 154

デートって...

「でもさ、良かったね、映画」 不意に俊也がにこ、と微笑み、俺を見つめてそう言った。 「え....あ、うん....」 ....映画館のあの独特の空間、時折、スクリーンの光はあるけど、ほぼ暗闇のあの空間につい... 貝殻繋ぎで結ばれた俊也の長い指や手のひらや。 耳に口元を寄せられて感想だとか言われたり尋ねられ、 耳に掛かる俊也の囁きの小さな風みたいな息だとか、めちゃくちゃ意識してしまって、内容が殆どといっていいくらい....入って来なくて。 しかも....セックスしたい、なんて思ってしまって....。 「....どうした?樹。イマイチだった?」 思い出して恥ずかしくて、口元を抑えてたら俊也に顔を覗き込まれた。 「う、ううん、な、なんでも、ない....」 俊也、不思議そうに首傾げてる....改めて考えてみたら、は、恥ずかしい、な....。 カフェでミルクティー、ストローで啜りながら....映画館とは違う、明るい日差しが差し込む店内でよくよく考えたら...。 「大丈夫?映画館からなんか変じゃない?もじもじして...体調悪い?大丈夫?」 うわ、....俊也、首傾げながら...。 「そんなに緊張しないでよ」 ば、バレてる、のか....緊張していたこと。 さすがに....したい、が、セックスしたい、の意味だとは悟られてはなさそうだけど...良かった。 と、思ったら、俊也が肩を抱き引き寄せられた。 ことん、と俊也の肩に頭を置いて....。 「どうする?次。何処か行きたいとこある?」 うわ....俊也のエスコート、逐一、ドキドキする、けど、嫌じゃない、な....。 落ち着く、凄く....。 「う、ん....」 なんだか俺の行きたいところばかりだな....。 チラ、と俊也を盗み見みみたいに見上げたら、目が合った。 「ん?」 優しい眼差し....。 口元を綻ばせ、俺を見つめていてくれてる....。 「....俊也は...ないの?何処か、行きたいところ、とか...」 「俺?んー...そうだな...楽譜やレコードとかレコーダーの針とか、本とか欲しい、けど...ネットでも買えるしな....」 あ、そうか...俊也、中学時代、あの事件以来、学校に行かせて貰えもせず、殆ど自宅にいたんだっけ...。 ショッピングモールやカラオケすら知らなかった....。 ラブホテル、の意味すらも。 確かにLOVE、て恋とか愛、て意味ではあるけど....。 「....本屋とか、行ってみる?」 「....本屋?行きたいかも。面白い本、あるといいな...」 あ、俊也が笑った。 嬉しそうに...笑ってる。 俺も、嬉しい、なんだか、暖かい気持ちだ。 「俺も、なんかいいのあれば読もうかなあ」 肩を借りて、寄り添い、見つめ合い、そうして一緒に微笑んで。 穏やかな愛しい時間に包まれて、体がぽかぽかして。 楽しいな。 デート、て楽しいな...。 肩を竦めて微笑んだら、瞼を細めた俊也の無邪気で眩しい笑顔に照らされた。

ともだちにシェアしよう!