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涼太side

豊がどんな風に母さんに話したのかは知らない、豊は話さなかったから。 ただ、豊のご両親に豊は相談も兼ねて話したらしく、幼馴染の俺たちの家とそう遠くはない一軒家を契約したのらしい。 念の為に警備会社と契約もして。 俺たちは夏休み、父さんも出仕している昼前だ。 豊や樹、俊也とも後から会う約束だ。 引越しの為の荷造りの最中、母さんが手を止めた。 「お昼前ね、出前でも取る?なにかスーパーで買って来ようか?」 「俺はどっちでもいいよ」 母さんに微笑み返し、母さんは車のキーを持ち、 「すぐ戻って来るからね」 と部屋を後にし、俺は再び、1人、荷造りに追われた。 幼稚園から住んでいる我が家。 寂しくなる気持ちもあるけど、新たな新生活に胸が高鳴る。 豊のご両親は俺を認めてくれ、多分、父とのことも知っているかもしれないのに、豊の家にいる際も優しくしてくれた。 有難いと思う、本当に...。 自然と頬を綻ばせながら、ダンボールに荷物を詰めていた。 不意にリビングに連なる扉が開いた。 「あ、母さん、おかえり、早かったね...」 振り返った俺は...固まった。 仕事の筈の父がスーツ姿の仏頂面で俺を見下ろしていた。 冷たい凍てつくような眼差しが否応なしに体の熱を奪っていく。 「...お前か」 何のこと...と思ったけれど、まるで喉を締めつけられているかのように声が出ない...。 なのに、父の顔から目が離せない...。 「お前が話したんだろう、ある事ないことを。脱税?児童買春?不倫?会社の不祥事?出鱈目をのさばっていいご身分だな。 出来損ないのお前がオメガの判定が出たのも頷ける。男に体を開くために生を受けたんだろう?違うか?」 ....体の震えが、止まらない。 怖い。 じりじりと父さんが歩み寄る度に退いていく。 足がもつれそうになり上手く歩けない...。 助けて、誰か。助けて。 父さんに詰め寄られ、無理やり自室。 電気も付けてはおらず、父さんの顔がよくわからないのは幸いかもしれない...。 だけど、怖い...。 俺、豊の彼氏な、のに。 父さんも知ってる筈な、のに。 「や、めてください、父さん」 か、と父さんは笑った。 「父さん?お前は赤の他人だ。お前の実の父親はとっくに不慮の事故だとかで死んでるだろう」 ...笑わないで、父さんを。実の父さんを笑わないで。 記憶はもうあまりないけど、父さんの笑顔は覚えてるから...。 頬に涙が伝う俺は父にベッドに押し倒された。

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