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第144話

もしかすると初めてかもしれない。 こんなに懸命に父さんを拒んだのは...。 いつから、だったろう。 力づくで拒んでも、結局は暴力を与えられ、激痛に耐えながら犯されるだけだとわかった。 抵抗もしない、ただの人形に成り下がったのは...。 父を懸命に押し、物を投げる。 大して体力のない俺の精一杯の抵抗でしかない。 父とのセックスをこれから帰宅する母さんにも、これから家に来るかもしれない豊にも樹や俊也にすら見られたくない。 「痛てーじゃねーか!いつもは抵抗もせず悦んでただろう」 せせら笑う父。 「そんなんじゃない!幾ら抵抗しても父さんは...!」 父が手を上げ、痛みで顔が歪む。 帰ってきて、助けて。 帰って来ないで、見ないで、どうか...。 二つの願いが交錯する。 「俺とのガキ勝手に堕ろしやがって。子供が可哀想だと思わないのか!?あ!?」 涙が...涙が止まらない。 子供に罪はないのはわかってる。 だけど...好きでもない父の子供なんて...。 だけど、罪の意識はずっと消えてはくれなかった。 彰人と遊んでいたら、不意に。 俺がもし、父との子供を産んでいたらどうなっていたか、だなんて...。 そんなこと、本当は考えたくはないのに。 父の子供なんて欲しくは、なかった、のに...。 父はコンドームを常に俺に用意させていた。 コンドームがないから、と拒んだ日、父は、 「まあ、いい。構わない」 そう言って行為に及び、泣き叫ぶ俺の口を塞ぎ、中に出した。 結果、中絶したものの、その後も父は俺の反応を面白がり、わざと避妊をしないことがあった。 ...諦めなきゃ、いけないのかな。 豊とは...終わらせないといけない、な...。 力尽き、抵抗する気力も体力すら限界だ。 「....好きにすれば。おじさん」 そもそも、父さんとは呼んではきた。 幼い頃、父さんと呼ばないと母さんに気づかれない、わからない場所で殴られていたから。 俺自身、今まで父さんのことを母さんにバレないように必死に笑顔で取り繕ってきた。 「...やるなら早く済ませて。母さんが戻ってくる前に。...豊たちが来る前に」 父さんがシャツの下の素肌を撫でてきた。 鳥肌が止まない。 豊とのときは最初はかなり緊張したし、震えもした。 ここ最近もあまり慣れなくて、滅多に豊と出来なくて申し訳ないけれど、豊は、 「体の関係だけの為にお前と付き合ってる訳じゃないし。安心しな」 そう言って笑顔で...。 嬉しくて。 父との行為、とっくに慣れていたつもりだったのに...涙が止まらない...。 シャツを脱がされ半裸にされ、デニムのファスナーに手がかかったときだった。 「涼太!ちょうど、豊くんたちと偶然...、涼太、あなた、なにやってるの...!」 不意に自室のドアを開けた母さんが声を荒らげた。 ....ああ、終わった。終わって、しまった...。 母さんの姿が涙で澱んだ。

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