147 / 154

部活と遥斗くんとの時間

見学を兼ね、涼太と演劇部の部室に出向くと三年の部長さんの小柳先輩、二年の副部長、戸田先輩にも歓迎された。 が、やっぱり部長さんたちのお目当ては涼太らしい...。 「今回の脚本に伊藤くんは大抜擢というかイメージそのものなんだよね。葉山くんも今回はメインではなくても次回はよろしくね、葉山くん」 「あ、は、はい...」 村人Aとか木や岩の役かな、と思ったら一応、人間の役柄ではあるらしい。 「じゃあ、ちょっと伊藤くんは話しがあるから」 とりあえずは台本を貰い、頭を下げ部室を後にした。 涼太というと、眉を下げ、どことなく関心がなさそうでもあるし、 「頑張ってね、涼太」 声をかけると、うん、と小さな返事が返ってきた。 台本片手に廊下をとぼとぼと歩く。 俊也は多分、ピアノの練習の為に音楽室だろう。 「...邪魔、したくないしな」 「あれ?葉山くん」 つい先日、話したばかりの遥斗くんの姿があった。 なにやら段ボールを抱えてる。 「大丈夫?手伝おうか」 「ううん、平気。俺より細くて小柄な葉山くんに手伝って貰うのも」 よっ、と声を出し、段ボールを抱え直してる。 「実家からね、色々送られてきたんだ。あ、こないだ話した紅茶、届いてるかも。来る?」 「うん!」 久しぶりに遥斗くんの部屋。 早速、遥斗くんは段ボールを開封し、 「あ、あったあった。待ってね、今、淹れるし。ストレートでいい?ミルク?」 「あ、良かったらミルクで」 「うん。了解。俺はコーヒーにしよ」 遥斗くんは段ボールの中の紅茶やコーヒーの茶葉や豆らしき袋を持ち、キッチンへ向かった。 「はい、どうぞ」 中央のテーブルに湯気を立てるマグカップが二つ置かれた。 「ありがとう。いただきます」 そっと上品なカップを持ち上げ、そっと啜る。 「あ、美味しい」 「本当?良かった。てか、古閑くんは?一人って珍しいよね」 「うん...」 伏し目がちにカップの中を見つめた。 「何かあった?」 「ううん。特には...ただ、俊也はピアノの練習で忙しくて、友達も演劇部にスカウトされて。俺ってなんにもないなあ、て思った。取り柄というか...」 しばらく無言で俺を眺めていた遥斗くんだったけど。 「そう?俺と友達になろう、て話しかけてくれたり。優しいんだなあ、真っ直ぐで、て俺は凄いなと思ったけど。葉山くんのこと」 「で、でも、そんなことくらい...」 「そんなことくらいじゃないよ?誰にでもそんな親切にできるとか。なんの見返りもなくさ。充分、葉山くんの取り柄だと思う。俺の方がないもん、本当」 そう言うと遥斗くんはカップを持ち上げコーヒーを含んだ。 「遥斗くんは、その、スタイルいいし...クールでカッコいいし美人じゃん」 「うーん...見た目の取り柄はいいかな、俺は」 遥斗くんはそう言って苦笑した。 「それ、台本でしょ?とりあえず、なにか役はもらったんじゃない?」 「え?あ、うん、一応...」 「友達と比較する必要は無くない?今回がたまたま友達の雰囲気がメインの役に合ってた、てだけでしょ」 「...俊也の婚約者だっただけあるな...なんだか遥斗くんの話し、て説得力があるもん」 「...そんなこと言われたら複雑なんだけど、俺。今度、気晴らしに図書室でも来たら?」 「そういえば、図書委員だったね、遥斗くん」 「うん」 涼太や豊との感じとは違うけど、遥斗くんとの時間もいいな。 思わず自嘲気味な気持ちが和らぎ、頬が綻んでた。

ともだちにシェアしよう!