146 / 154

新学期と部活、新たな友人

夏が終わり、秋口。 新学期に突入し、半袖だった制服も長袖になり、俺たちは再び寮生活に戻った。 俺はというと、久しぶりに涼太の部屋へ来ている。 以前は殺風景だった部屋が若干ながら豊の影響なのか物が増えた。 涼太からとある相談をされた。 なんでも、演劇部の先輩から勧誘されたんらしい。 「俺一人じゃ無理だし、樹も入るなら考えます、て答えた」 涼太のあっけらかんとした口調に唖然となった。 「や、無理だし!演劇部なんて!」 「でも、俊也もピアノ、音楽室を借りて本格的に頑張るんでしょ?そうなると樹、退屈じゃない?」 ...ぐうの音も出ない。 確かに俊也はコンクールに挑戦してみるとかでピアノに勤しみ、俺との時間は作るとは言ってはくれたものの邪魔したくはない気持ちもある。 「俊也がピアノ専攻するならさ、樹は演劇を専攻する、て手もあるよね?」 「え?でも、演劇部は俺じゃなく涼太をスカウトしたんじゃん」 「それは先輩が樹のことを知らなかっただけだと思うけど...」 涼太も無事に義父の逮捕もあり、豊のご両親も涼太の新居や新生活を気に掛けて、快く食材などを持って行ったりと、涼太は豊の婚約者のようなものだから大切にされている。 演劇も涼太の為にいい手段なのかとも思うんだけど...俺まで、となると、な。 俊也に相談したら、 「いいんじゃない?やってみたら。どうしても無理なら辞めればいいだけの話しだし」 案外、あっさりしたものだった。 「後で行くから先に行ってて」 そうして、俺は涼太や豊と食堂にいる。 不意に俊也の婚約者だった遥斗くんの姿が目に止まった。 「...あ、の」 ちら、と遥斗くんが漆黒の形のいい瞳を見上げた。 「安心して。婚約は解消したから」 「うん...。あの、お兄さんの和斗くんは...?」 遥斗くんは小さく笑った。 「兄さん、俺が気づいてないと思ってたらしいけど。病院をいずれ乗っ取るつもりだったんだよね。だけど、婚約が見事に破棄になって計画は全ておじゃんになって。自宅で一人、暴れてる」 「そうだったんだ...」 「兄さんは俺を利用してたつもりみたいだけど。ようやく楽になったかな。古閑くんや古閑くんのお母様のお陰」 「...やっぱり、遥斗くんは自由になりたかった、んだね...」 言葉を飲み、遥斗くんは視線を逸らした。 「...俺も。恋愛できたらいいな。兄さんとの駆け引きみたいな、あんなんじゃなくて」 「出来るよ!遥斗くん、イケメンだし!美人だし!出来るよ、絶対!」 思わず声を上げたら、遥斗くんはきょとん、とした後、屈託なく笑った。 「あ、のね」 「なに?」 「その...友達に...ならない...?」 遥斗くんが目を見開いた。 「...わかってる?俺、あんたの彼氏の元婚約者だけど?」 「わかってる。けど、元、でしょ?あ、あの...あの日。突然、部屋に行った日。いい豆が送られてきたから、てコーヒー、勧めてくれたのに、ごめん。飲まなくて...。俺、コーヒー、苦手で。紅茶が好きで...」 再び遥斗くんはきょとんとなり、そして笑ってくれた。 「そっか。だったら今度、いい茶葉、用意しとく」 「うん!」 俺に新たな友人が出来た日。

ともだちにシェアしよう!