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第160話
「にしても。樹が一人暮らしなんて意外かも」
シンプルながら小説やエッセイ、俊也の影響の物理や天文学、語学などの書籍や映画のDVDなどが並ぶ本棚に俊也は、樹らしい、と目を細め微笑した。
「...俊也が帰国したときに俊也も安心して二人きりになれるかな、なんて思って」
ベッドの上で横たわったまま向かい合い、俊也は俺の髪を愛しげに指で梳く。
「涼太や豊、遥斗のお土産も買ってきたよ」
「ホント!?良かった!ありがとう」
「まさか、遥斗と未だに連絡取り合う仲とはな、樹らしい」
俊也の腕の中で微笑まれた。
「うん...。和斗くんはあの一件以来、海外なんだって。詳しくは遥斗くんも知らないらしいんだけど。双子だし、遥斗くんが和斗くんに影響を受けないようご両親なりに心配しているみたい...」
「そっか...」
「でもね。遥斗くんのお父さん、て外交官だったんだね!遥斗くん、幼少期からあちこち海外にいたから自然と言語を覚えるしかなかったらしくて。それで、今、俺、遥斗くんから語学、学んでるんだ。あとアプリとかでもだけど」
「樹なりに頑張ってるんだな」
「うん。本当、俺なりにだけど。
涼太は高校の頃スカウトされてなんとなく演じた役がきっかけで今、演劇部。
豊は俊也も知ってるかもだけど、弟くんが中学生になったからか、家庭教師やってて、
俺は特にバイトもしてないぶん、いつか俊也と結婚したら俊也の役に立ちたいな、てそれで独学だけど語学、学んでおこうかな、て...」
そこまで言うと俊也が額に小さな優しいキスをくれた。
「いつでも来て欲しい、本当に。でも樹の選択は案外、間違ってなかったのかも」
「....どういうこと?」
「言語も勿論だけど。日本とはまるで違う。フランス語しか耳には入ってはこない。
食文化もなにもかも違う。まず、衣食住、て本当、大事だな、て思った。和食のレストランなんてほぼ無いし、日本の食材もなかなか手に入らないから」
「...ホームシック、みたいな...?」
「そんな感じに近いかな。俺はせっかくフランスに来たんだし、てなんとか食生活も割り切れてるけど。もしかしたら樹に寂しい思いさせたかもしれないな、て。
それに今回は春休みではあるけど、単位さえ取って成績次第ではそれなりに休みもあるし、なんなら飛び級だってある」
俊也の真摯な眼差しを見つめたまま話しを聞いた。
「だから俺は頑張りがいがあるし。樹に会う時間が作りたい、ピアノのレッスンの時間を作りたい、てさ。
遠距離でも絶対に大丈夫、てあの日の樹の言葉も力になってるよ」
そこまで聞いた俺は思わず互いに見つめ合い、微笑んだ。
「日本の食材、なかなか手に入らないんなら送るよ、なんだって」
「うん。一応、親から米とか味噌だとかは送っては来て貰ってるんだけど、助かる、本当に」
「あとは?納豆とか、豆腐とか...?」
「だね、海苔とかお漬物、梅干しなんかも嬉しい、日本では当たり前にあっても向こうではそうじゃないから」
「わかった、母さんとも色々相談してみる」
返事の代わりに唇を合わせてくれた。
明日は涼太や豊とも会う予定。二人の反応も本当に楽しみだ。
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