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第4話
恥ずかしいヤツ、それは教虎もだけれど俺も大概だ。
「お返しは3倍返しが基本だよな...とか...」
あの時、そんな言葉をつけて送ったチョコレート。本当にホワイトデーにはそのチョコの三倍はするであろうネクタイピンを貰った。贈り物には意味があるのだとどこかで聞いた覚えがあったから調べてみれば、その意味に絶句したけれど...。
「貴方は私のもの、ねぇ...」
あの時もらったネクタイピンを蛍光灯の光に反射させてみる。鈍く光るネクタイピンは貰ってからというもの、学校に行く時にはほぼつけて登校しているような気がする。まぁ、つけないと教虎が『ネクタイピンは?』とにやついた顔で絡んでくるから、という理由もあるが。
鈍く輝くネクタイピン。それは、所有の印というべきか。貰ったものは他にも色々あるけれど、ネクタイピンは特別な気がした。
(常に身につけるものやし?)
所有の印なんてもの、他にないし?
多分、俺は教虎のものになれたら、なんて思ってる。一応、俺は教虎のものだろう。だけれど、多分そうではなくて...『絶対』の証が欲しいのだと思う。
酷く他人事のように自分を分析する。それも今となっては癖であり、なんとなく自分はこうしたいんだろう、なんて考えることもあれから随分多くなった気がする。
ぼんやりとした頭でネクタイピンに音もなくキスして、やっぱりもう今日は集中できないのだろうと、ようやく悟った。
「会いたい......」
声に出してしまうと、もうダメだった。女じゃないんだし泣いたりしないけれど、途端に寂しさに襲われた。
「どうなりたいんだ、俺は...」
多分、教虎のものになりたい。代用がきかないような、絶対の存在になりたい。
心の中で答えては見るけれどその答えに同感する自分もいれば『馬鹿らしい』と罵る自分もいる。でも、これは多分...心の底からの答え。本当に、そう思っている、筈。
いっそ、体でも重ねてしまえばいいのだろうか。教虎に抱かれればこの気持ちは晴れるだろうか。
そこまで考えて、ベッドに体を投げた。そんなの、抱かれる理由になるのだろうか。ベッドに沈む体を酷く重く感じながらも、思考は切れない。
教虎の中では俺は彼女扱いらしい、なら別に俺は抱かれたって構わない。教虎相手ならどちらでもいい気がした。
顔を枕にうずめて考える。女の子は抱かれる時痛いらしいけど、男でも同じなのだろうか。そんな知識ないし、今まで調べようとも思わなかった。一応医学部志望だし、知っていて損は無いのだろうかとベッドサイドに置かれていたタブレットに手をかける。
何やってんだ自分、とは思ったけれどそれでもいざって時何も知らないってどうなんだ、なんて言い訳して検索に手をかけた。
「うっ...わ...」
ドン引くような検索結果の中、とりあえずわかったことは痛いということ。手順をしっかり踏めば痛くないらしいけれど......少し恐怖が生まれたのは言うまでもない。
でも、痛いなら尚更教虎は抱く側だな、と思う。痛い思いはさせたくないなんて自己犠牲も甚だしいかもしれないし、教虎が抱かれるっていうなら俺も止めたりしないけれど。
タブレットを元あった位置に戻しながら少しだけ考えてみる。
腕を首元に回して、何度もキスして、所有印をつけられて。
背筋が粟立つ。あぁ、それでもいいかも、なんて思ってしまった。見える位置でも構わないから、幾つもキスマークをつけて、だなんて。
「頭わいてる」
ポソッと言った独り言に言葉を返す人は誰もいない。
そんなこと考えていたせいなのか。会いたい、余計にそう思ってしまう。
「会いたい.......」
無意識に声に出ていたその言葉、何度も何度も口にする度に苦しくなってゆく。まるで、息ができないと分かっているのに自ら深海へと沈みゆくように、意識も少しずつ沈みゆく。
あぁ、寂しい。
沈みゆく意識の中で、確かにそう思ったことだけは覚えていた。
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