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司書さんは僕に『貸出カード作成記入用紙』という紙を渡してきた。
僕は自分の名前を書くのが嫌だから、少し憂鬱になった。だって、読めないんだもん。
でも仕方ないか…と筆談用に持っていたペンを使って空欄を埋めていく。
名前、年齢、住所…。
ある程度、埋め終わって司書さんに渡すと、案の定不思議な顔をされた。
「こちらなんと読むのですか?」
名前を指さして聞かれる。読み仮名最初から振るべきだったかと後悔しつつ、今度は筆談用のメモ帳に『さとう あげはといいます』と書いた。
「!」
紙を見せると彼は目を瞬いたあと、『…アゲハと読むのですね、失礼しました』と言った。
――声については、何も言ってこないんだな、珍しい。大抵の人は僕がこういう行動をすると、色々聞いてくるのに。
中にはこういう人もいるんだなーと機嫌が回復する。
少しすると司書さんが出来たてホヤホヤのカードを渡してきた。
「登録させて頂きました。今日からお使いいただけます」
ぺこ、とお辞儀をし、ついでにありがとうございますとも書いた。やっと本が借りれるぞとうきうきしていると、視線に気づいた。
司書さんがこっちみてる。
さっき僕もまじまじと見てしまった身だし、何も言えない…。でも、困ってちら、と目を合わせてみるとなぜか謝られた。
「ごめんね…ただ、綺麗で」
「?!」
自分を指さし、目を見開く。綺麗、どこが?!驚いて硬直してると、「君も、名前も」と答えられた。
「アゲハ、か…。君の髪の色、綺麗な黒だし…まるで、クロアゲハみたいだね」
くろ、あげは…あの、綺麗な黒い蝶…それが僕?さっき司書さんがしたのと同じように目を瞬いていると、司書さんは変なことを言ったと自覚したのか「あ、すみません!」と再度謝られた。
頬が熱くなるのをかんじる。
僕は、自分のコンプレックスだった名前を…見た目と合わせて綺麗だと言ってくれた彼に恋をしてしまったんだ。
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