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二重扉を開けて空調のよく効いた図書館内に入り、生き返ったーって感じで息を吸い込んだ。 季節は夏真っ盛りで、バスから降りて少し歩くだけで汗が滲む。 成瀬さんはいつものように真ん中のカウンターのところに座っていた。ドアの音に気づくとこっちを見て、やっぱりいつものように微笑みかけてくれる。 あーかっこいい! 顔が赤くなってるのがバレないように、ぺこっと軽くお辞儀をしてスタコラサッサと奥の本棚に逃げた。 逃げた後になって、変な子って思われてないかな、直ぐに奥に行って気を悪くしてないかな、って考えちゃう。 でも特別仲がいいわけではないし…気にされてなさそう、って結論づけた。 仲良くなりたい、でもそれは"声があったら"の話。 声が出せない僕はそもそも仲良くなるのが人より大変。きっと成瀬さんにも気を遣わせちゃうし、疲れさせちゃう。 声が出せたら…と思って最近はちゃんとカウンセリングに意欲的に取り組んでるけど、今のところ成果はなし。僕の声は戻る気配を見せなかった。 今日はどの本を読もうかなーとキョロキョロしていると、外国著者のファンタジー本が並んだ棚に辿り着いた。 外に出ない僕には時間がたっぷりあって(勉強時間は除く)、文庫本はもちろん、哲学や心理学、童話やエッセイなど色んな本を読んでいる。 そう言えば最近ファンタジー物を読んでないなって気づいて、僕はそこからタイトルから気になった物を2~3冊抜き取って窓辺の読書スペースに持って行った。

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