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第3話
「今日はよろしくお願い致します」
明らかに男性と分かる低い声。
その声からはかなり緊張している様子が伝わってくる。
「どうぞ、リラックスしてお話ください」
戸の向こう側にいるその人に私は言った。
「ありがとうございます……」
響きの綺麗ないい声なのに、どこか自信のない、というか繊細そうな印象を受ける。
「僕、声の仕事をしているんですが、先輩から紹介された仕事をする自信がないんです。若いうちに経験した方がこの先の為にもいいと言われて、しかもギャラも普段の倍以上するのですが……」
「そうなんですね」
合点がいった。
確かにこの声はとても貴重な、価値あるものだと思う。
けれど、この人はそれを使うべきか否か迷っている。
何をそんなに気にしているのだろう。
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