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第26話

 包文維は、床に這いながら大声で喚く宋暁を無視して、バスルームへ急いだ。早く宋暁の匂いを落とし、愛しい煜瑾を迎えに行きたかったのだ。 「行かないで!」 「!」  逃げるように立ち去ろうとする文維の長い脚に、宋暁は縋りついた。 「止せ!放せ!」  文維は苛立たし気に振り払おうとするが、宋暁は放さない。 「お願い、彼と別れてよ!僕には、ウィニーが必要なんだ…」 「いい加減にしろ!」  本気で切れた文維は、宋暁を拒絶し、叫んだ。 「私には、君は必要ではない!私の人生に必要なのは、唐煜瑾、ただ1人だけだ」 「いい加減にするのはどっちだよ!」  怒りに任せた宋暁だったが、急に寂しそうに訴えかける。 「あんなお坊ちゃん相手に…、何が楽しいんだよ、ウィニー。僕らは特別だろう?」  甘えるように文維の素足に宋暁は頬ずりをし、その女性的な手を彼の晒された性器へと伸ばした。 「ねえ、ウィニー。アメリカでの楽しい生活を思い出してごらんよ…」  指先で擦り、握り込み、文維が拒まないことを確かめ、宋暁はゆっくりと力の無い文維の物を口に含んだ。  それを、ジッと上から無表情で見つめていた文維だったが、不意に宋暁の頬に手を触れた。 「私から離れろ。さもなくば、その売り物の顔に傷がつくぞ」  文維の脅しに、一瞬は宋暁も怯んだ。文維から身を剥がし、恐る恐る文維を見上げる。  こんな冷酷な文維を宋暁は知らなかった。だが急に我に返り、子供のようにゴネ始めた。 「あんなバカみたいな子のどこがいいのさ!僕の方がキレイだ!僕の方がセックスも上手だ!僕の方が…」  昂っていた感情が少しずつ収まり、いつしか宋暁は涙ぐんでいた。 「僕の方が、包文維を愛してる…」  泣き崩れる宋暁を、文維は冷ややかに見ていた。 「自分に、嘘を吐く必要はないよ、宋暁」  無感情な小さな声で文維は言った。 「君も私も、互いに本気じゃなかった。学生時代のただの遊びだっただろう?なぜ今になって、こんな風に見苦しい真似をする?」 「どうして、本気じゃないだなんて言うんだよ。どうして、遊びだっただなんて…。どうして、僕がウィニーを愛していないなんて思うんだよ…」  華奢な肩を震わせる弱々しい宋暁に、文維はその男らしく知的で整った顔を歪めた。 「百歩譲って、君が私を本当に愛しているとしても…」  まるで救いを求めるように、床に這う宋暁は文維を見上げた。 「私には関係ない。私には、唐煜瑾以外は必要ない」  文維は淡々とそれだけを言い、バスルームへと急いだ。

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