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第25話

 文維(ぶんい)は、自分のアパートの、自分の寝室の、自分のベッドで目を覚ました。 「ん…、煜瑾(いくきん)…?」  自分の体に寄り添う体温に、文維は反射的に愛しい恋人の名を呼んだ。それと同時に腕を伸ばし、引き寄せ、そこで目を開いて驚いた。 「!」  文維の腕の中で微笑んでいたのは、高雅な「唐家の王子」ではなく、世界的トップモデルの宋暁(そう・しょう)だった。 「おはよう、ウィニー」  媚びるような妖艶な笑みで、宋暁は指を伸ばして文維の頬に触れた。 「こんな(ふう)な朝、何年ぶりかな」  微笑む宋暁とは反対に、文維はひどく厳しい顔をしてゆっくりと身を起こした。 「なぜ、君がここに?」  怒ったような顔の文維をあざ笑うかのように口元を歪め、宋暁は言った。 「あんなに激しく愛し合った後に、そんなこと言うの?」 「何?」  確かに宋暁は何も着ていないように見える。  文維自身もまた、覚えはないが何一つ身に着けていない。 「どういうことだ!」  明らかに怒りに動揺している文維は、今にも宋暁に掴みかかりそうな勢いで睨みつけた。 「どうって、パーティーで会って、文維が酔って、僕を誘って、…あとはお決まりのコースってことじゃない?」  呆れたように、宋暁は文維を見つめ返し、ニッと意地悪く笑った。 「私は…、煜瑾以外とはそんな…」  昨夜の記憶を取り戻そうと考えこんだ文維に、宋暁はグッと顔を近づけて唇を掠めるようにして囁いた。 「『王子さま』も、驚いていたけどね」 「!煜瑾が居たのか!」  文維はショックのあまり、宋暁を突き放し、ベッドから全裸のまま転がり出た。そして、フラフラとしながら立ち上がり、ベッドの上で寛ぐ宋暁に叫んだ。 「煜瑾が、昨夜ここにいたのか!」  初めて見る感情的な包文維に、宋暁はいかにも楽しそうに高笑いをした。 「あはははっ!来たよ、あの清らかで、高貴で、カワイイ『王子さま』が。ここで、僕とウィニーが激しいセックスをしてるのを見て、泣きながら帰って行ったよ…」 「宋暁!」  怒りに耐え兼ね、文維は宋暁の肩を掴んだ。 「痛いよ、ウィニー」  痛みを堪え、甘えるように宋暁は声を上げる。 「その名で呼ぶな!」  怒りに任せて文維は、今度は宋暁の腕を掴み、ベッドから乱暴に引きずり下ろした。 「君のような男に、私の煜瑾を傷つける権利はない!」 「黙れよ!」  誰もが信じないような、感情に振り回される包文維の姿を楽しんでいた宋暁だが、どうやっても文維の気持ちを自分の方へと向けられないと気付いた時、猛然と腹が立った。 「あんな澄ました顔の、世間知らずのお坊ちゃんのドコがいいのさ!」  床に這いながら、憎々し気に宋暁は叫んだ。

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