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第24話
冷凍のピザや点心、フリーズドライの海鮮粥。デザートにはチョコバナナパイと、マンゴーにパイナップル、イチゴやブルーベリーなどの冷凍フルーツを冷蔵庫にあったプレーンヨーグルトに入れた。飲物はビタミンたっぷりの数種類のジュースと、小敏 が最近気に入っているヨーグルトドリンクがあった。
「ごちそうだね~」
人の良い優木 は、小敏とリビングのローテーブルに溢れるほどに並んだ、申豊 食品公司のメニューに目を見張った。
「このピザ、美味しいんだよ」
優木にピッタリと寄り添い、小敏はお気に入りの冷凍ピザを一切れ差し出した。
そんな睦まじい2人を見せつけられ、申玄紀 はどんどん落ち込んでいく。
「この点心も食べてみてよ」
「そ、そんなに急いで食べられないよ」
熱心に勧める小敏に、優木は人の良い笑顔を浮かべながらも困っている。
〈ありがとうございます、申さん〉
そして、なんとなく居心地が悪そうな玄紀に気付いて、礼を述べる。
〈ご遠慮なく〉
玄紀も、どうしてよいのか分からずボンヤリしていたのだが、誠実そうな優木の言葉に、不意に何かが吹っ切れた。
「ね、優木さん、美味しいでしょう?」
「そうだね」
ニコニコとしながら、優木は蒸し餃子や糯米 焼売を少しずつ口に運ぶ。よく味わって、食事を楽しんでいるのが、玄紀にも伝わった。
〈玄紀、いつも美味しいものを持って来てくれてありがとう。優木さんも、とっても喜んでる。ボクも嬉しいよ〉
小敏は、これまで玄紀が見たことも無いような、明るく輝いた笑顔を浮かべていた。そんな小敏を、眩しそうに見つめる玄紀だ。
〈玄紀、キミはいつもボクのためにって考えてくれる。それは嬉しいけど、それは、本当はボクのためじゃない。キミ自身のため…。キミの理想のボクのためじゃないかな〉
〈羽小敏!〉
唐突に心外なことを言われて、申玄紀は愕然とする。
そんなことは無い。いつだって、玄紀は「羽小敏」のためを思ってきた。小敏が幸せであって欲しいと思い続けてきた。そして、誰よりも幸せに出来るのは、自分だけだと信じていたのだ。
〈ボクは、誰かに幸せにしてもらおうなんて思ってない。ボクは、ボクだけを愛してくれる人と一緒に幸せになるんだ〉
小敏はそう言うと、優木の首に腕を回し、引き寄せ、ねっとりとした甘い口づけを玄紀に見せつけた。
「ちょ、ちょっと、シャオミン!申さんに失礼じゃないか、よしなさい」
生真面目で、昔気質のところがある日本人の優木は、「友達」である申玄紀の前で熱烈なキスなど見せるようなことは破廉恥だとして、とてもではないが受け入れられない。
「いいんだよ。玄紀だって、ボクたちを祝福してくれてる」
優木にそう言いながら、小敏は玄紀にも穏やかな視線を送った。
玄紀は、目の前の小敏が、これまでに見た中で一番幸せそうだということに気付いた。
もう、申玄紀がどれほど羽小敏のことを想おうと、決して優木と小敏の関係に割り込むことは出来ないのだと痛切に感じた。
〈お幸せにね、小敏、優木さん〉
少し寂しそうに微笑む申玄紀に、戸惑いを感じながらも温かく頷く優木だった。
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