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第91話

「さっき、煜瑾(いくきん)にメールしたら、今夜は文維(ぶんい)と一緒に(とう)家のゲストハウスに泊まるんだって」 「ゲストハウス?」  リビングで荷物をほどきながら、小敏が楽しそうに話を始めた。いくつもの簡易な包装のドライフルーツや魚の干物やスルメ、貝柱が出てくる。屈託なくおしゃべりをしながら、ちゃっかりとひと口サイズのドライパイナップルや乾燥貝柱をポイポイ口に放り込んでいる。 「そう。あんなに呆れるほど大きなお屋敷なのに、広い庭の向こうに立派なゲストハウスがあるんだよ。それもずっと放置されてたんだけど、文維と煜瑾が婚約したのを祝って、唐家のお兄様が、そのゲストハウスを文維にプレゼントしてくれたんだって。それを煜瑾が改装のデザインをして、とっても素敵な南欧風のコテージみたいになっててね…。それで…」  優木は、浮かれた様子でおしゃべりを続ける恋人を引き寄せ、その口を塞いだ。 「もう分かったから。今は2人で食事をしよう」  2人だけの時間を大切にしたい優木の気持ちを、小敏もやっと察した。 「ふふっ、そうだね」  結局、優木の希望でデリバリーはやめて、日本のお米を炊き、海南島で買って来た魚の干物を焼き、インスタントのお味噌汁で簡単な和食の夕食を用意した。 「ごめんな、こんな貧相な夕食で…」  優木は、海南島での贅沢な毎日を思い出して、そう言った。 「どうして?上海のど真ん中で、こんなに本格的な和食が食べられるのって、すごく贅沢じゃない?」  そんな風に茶目っ気たっぷりに言って、小敏は大好きな優木のお手製のぬか漬けのキュウリを口に入れた。満足そうにポリポリと音を立てて食べる。  その様子に、優木も嬉しそうな顔をしていた。  食事を終え、リビングに戻った小敏は、明日にでも持って行こうと、煜瑾へのお土産をまとめていた。ドライフルーツをたっぷり。それと、種類の豊富な魚介類の干物も少しずつ。  純真な煜瑾が、これらをどれほど喜ぶかを想像し、小敏はワクワクした。これまでも大好きな親友だった。  けれど、優木との絆を結ぶ、ステキな金の指輪をデザインしてくれた煜瑾がもっと、もっと好きになった。 「明日、煜瑾にお土産持っていくから、優木さんが指輪のお礼を言ってた、って伝えるね」  夕食の洗い物を終えた優木が、リビングに戻ると、小敏はそう言って自分の指に輝く金のリングをうっとりと見つめていた。そんな小敏が優木にはいつも以上にキレイで愛しく思える。 「ぜひ、よろしく伝えておいてくれ。今度、一緒に食事でもどうかなあ。俺からもお礼が言いたいし…って!」  気が付くと小敏がムッとした顔で、優木の耳を引っ張っていた。 「痛いって、シャオミン!」 「だって、煜瑾と食事したいなんて!」 「はあ?」  美貌の親友に関心を持つ恋人に、小敏は嫉妬に燃えていた。

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