92 / 172

第92話

「指輪のデザインのお礼は、ボクが言うから、優木(ゆうき)さんはいいの!」  恋人に嫉妬されることなど体験したことが無かった優木は、キョトンとしていたが、不服そうに唇を尖らせる小敏(しょうびん)がたまらなく可愛く思えた。 「もしかして…煜瑾(いくきん)くんに嫉妬してるのか?」 「そうだよ」  素直に答える恋人が可愛くて、優木は破顔した。  そして、声を上げて笑うと、小敏の手を取って、自分の方に引き寄せた。 「煜瑾くんは確かに美人だけど、キレイなお人形みたいで物足りないな。やっぱり、俺を夢中にさせるのは小悪魔のような、シャオミンじゃないと」  そう言うと、優木は腕の中の小敏に濃厚な口付けをした。  その情熱をたっぷりと堪能した小敏は、嫉妬にむくれた顔ではなく、子供のように無邪気な顔になっていた。 「…ま、優木さんを満足させられるのは、ボクくらいだもんね」  強気にそんなことを言い、小敏は、今度は自分から誘いかけた。ねっとりと舌を絡ませ、優木の膝の上に乗り、そのまま押し倒す。小敏の巧みな愛撫に、優木は陶酔して半ば目を閉じている。 「ねえ…優木さん…」 「ん、何だ?」 「…疲れてるよね?明日も仕事だし…」  珍しく小敏が遠慮がちに言った。自分の誕生日を祝うために、なんでも付き合ってくれた。振り回されて疲れ切っているのは分かっていた。  そして、明日には通常通りに出勤する、真面目な日本人サラリーマンだ。 「シたいのか?」 「…うん…」  いつものような、こちらの都合を考えようともしない身勝手な小悪魔の顔ではなく、取り残された子供のような心細い目をした小敏がそこにいた。  どれほど心を注いでも、体の繋がりでしか安心を得られない恋人が切ないと、優木は悲しそうに眉を寄せる。  肉体的な温もりが無いと不安になる小敏だった。  優木と出会って初めて、心で繋がり、満たされることを知った小敏だった。  そして、この本物の愛を失うことを、極度に恐れる小敏だった…。 「おいで…」  自分の上で馬乗りになっている恋人を、優木は慰めるようにソッと抱き寄せた。 「本当にシたい?」 「…うん。優木さんさえよければ…」  ギュッと甘えるように抱き付いて、小さな声で小敏が言った。優木は、それを笑って受け止め、優しく、小敏の背を繰り返し撫でた。その穏やかな温かさに、小敏は安心したように無駄な力を抜いて、全身を丸ごと優木に委ねる。 「いくら若いって言っても、今夜は小敏だって疲れているだろう?」 「ん…、でも…」 「いいから」  優木は小敏の反論を許さず、ただ小敏を抱く腕に力を込めた。

ともだちにシェアしよう!