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第3話 まさかの即オチ
サウザンドルインズは観光地としての歴史のほうが長いため、街の中には冒険者向けの宿屋のほかにいくつかホテルが点在している。
ホテルと宿屋の大きな違いは、建物や備品などの豪華さだ。宿屋は実用的かつ質素だが、代わりに長期滞在しても割安で済む。武具屋や道具屋が併設されているところもあり、定住していない流れの冒険者のほとんどは宿屋に宿泊するのが普通だ。
一方、ホテルは日常を忘れられる程度には華やかで、ひとときの楽しみを味わうための施設に特化していた。
そんなホテルの中でも一番新しい、やたら洒落た雰囲気の一室で、俺はいまシルバーランクの剣士とエールを酌み交わしていた。
「まさか、このホテルでお酒が飲めるなんてね」
「すみません、好みがわからなくてここにしたんですけど、嫌でした?」
「いや、街の人間には縁遠いホテルだから、少し驚いただけだよ」
「よかった」
ふわりと笑った顔は、二十四歳という年齢よりも若く見える。
軽く食事をしながら年齢を聞いたときには、フォークを握った手が止まるくらいには驚いた。その歳でシルバーランクの剣士ということは、思っていた以上の腕前だったということだ。
(……まぁ、この体格だしな)
普段着に着替えた体は間違いなく俺好みの逞しさで、ゴールドランクのヒューゲルさんといい勝負だと思った。Sランクの夜狼 の群れに遭遇したとしても、一人で何とかできる自信があったことも頷ける。
(それでも、まさか一晩で達成するとは思わなかったけどな)
しかも疲れた様子が一切見られない。ギルドに現れたときも、返り血すら浴びていない姿に心底驚いた。それなのに、差し出してきた手には夜狼 を討伐した証である魔獣石が七個もあったのだ。
魔獣石は魔獣が死んだときに現れる石で、一頭に一個存在する。それが七個ということは、七頭仕留めたということだ。もちろん依頼書にあったボス格の夜狼 の大振りな魔獣石もあった。魔獣石の中央には夜狼 の紋様が刻まれていたから間違いない。
銀色のランクチェッカーに依頼達成と報酬決済を登録しながら、俺は内心「実は名のある冒険者では?」と思い始めていた。しかし、ニゲルという剣士の名前に見覚えも聞き覚えもない。ギルドの受付として十年働いていることもあり、ある程度有名な冒険者の名前は覚えているが、どんなに記憶をたどってもニゲルという名前は出てこなかった。
「こんな誘い方は、好きじゃありませんでしたか?」
俺が四つ年上だと教えたからか、やけに丁寧な話し方をする。それとも、この口調が素なんだろうか。
「いや、こんな素敵なホテルに泊まれることなんて滅多にないから、うれしいよ」
「喜んでもらえて、よかった」
丁寧な口調とはにかむような顔を見ていると、やっぱり手慣れているようには思えなかった。それでも初対面の俺を誘ったということは、こういうことに不慣れというわけでもないのだろう。
(うーん、どの程度遊んでいいものか悩ましいな)
いつもなら難しいことは考えずに美味しい料理と酒を楽しみ、清潔なベッドで一晩お互いを堪能する。そのつもりで俺を誘ってくる相手ばかりだし、大体が手慣れた冒険者だったからそれでよかった。
そうした相手なら後腐れもなく面倒もないのだが、目の前の顔を見ているといつもと勝手が違って少しばかり考えてしまう。そんなふうに考えている俺に気がついたのか、ニゲルが俺の手を取り、指の背に触れるだけのキスをしてきた。
「ハイネさんは冒険者が好みだと聞いたんですが、俺は合格ですか?」
手慣れていないように見えたけれど、いまのセリフはそうでもないな……。それなら、心置きなく相手をしてもよさそうだ。
体の相性がよければ、この先何度か相手をしてもいい。こんなホテルに誘うくらいだから、懐具合も十分に違いない。美味しい食事と酒も奢ってくれたし、広い風呂も思う存分堪能できた。毎回は無理だとしても、一回目がこれだけ豪華なら今後も期待できる。
それに、ここまで来て目の前の逞しい体を味わわないなんて選択肢はなかった。
「合格どころか、とても俺好みだよ」
「よかった」
うん、年齢より年若く見える笑顔も悪くないし、たまにはこういう年下と遊ぶのもいいかもしれない。俺はにこりと笑い、十日分ほど溜まっている性欲をしっかり解消させてもらおうと、逞しい首に両腕を絡みつかせた――。
「ひぅ、ぃ、ぁ……!」
「あぁ、またイッちゃいました?」
「や、め……、も、むり……ぃっ」
「はは、ハイネさん、かわいい」
涙が止まらない俺の目尻をペロッと舐めたニゲルが、子どものような笑みを浮かべる。そんな顔とは裏腹に正常位で俺を押さえつけたニゲルは、逞しい腰でグリグリと俺の腹の奥をこねくり回しながら長大なペニスをこれでもかと押し込めてきた。
「ひぅ! ひ、もぅ、むり、だ、って、……っ」
「もっと開発されてるんだと思ってたんですけど、そうでもないですね」
「い……っ!?」
「乳首の色も綺麗だし、あまりいじってなかったんですか?」
「っ、ん……!」
「感度は悪くないから、これから俺がじっくり開発してあげます」
そんなことを言いながら、ニゲルが左の乳首をキュウッとつまみ上げた。それだけで乳首がジンジンしてたまらなくなる。
これまで舐められることはあっても、こんなにしつこくいじられたことなんてなかった。俺にとって胸はセックスに必要なものではなく、前戯以前のものだった。
「ほら、もうこんなにプックリしてますよ」
腰の動きが止まった代わりに、乳首を見ろと言わんばかりに爪でツンツンと突かれる。誘導されるように自分の乳首に視線を向けた俺は、思わず「ぇ?」と小さく声を出していた。
「ね、エロいでしょ?」
エロい……、とは思う。真っ白な肌と濃い色の乳輪、その真ん中でプクリと膨れた紅色の乳首は、持ち主である俺が見ても十分エロいものだった。
いままでこんなふうになった乳首なんて見たことがない。こんな……、まるで触ってくれと言わんばかりの状態なんて、初めてだった。
「たくさん相手がいるって聞いてたんですけど、思ったより綺麗な色してますね」
「は……?」
「だって乳首もこんなに綺麗だし、チンコは使ってないだろうから綺麗だとして、アナルも綺麗な色ですよ?」
「なに、言って、」
「まぁふっくらした具合から使い込んでるっていうのはわかりましたけど、まだ完全には縦割れしてないですし、ねっ」
「……っ」
グッと腰を突き上げられて、悲鳴が漏れそうになった。そのままさらにグッグッと奥を突かれてビクビクと腰が跳ねてしまう。シーツを握り締めている両手に、さらに力がこもった。
言葉遣いや雰囲気に騙されたと思った。不慣れではないけれど手慣れていないかもだなんて、完全な間違いだった。
こんなにセックスに手慣れている男だったなんて、勘違いも甚だしい。気持ちがいいのは大歓迎だが、手のひらで転がされているようなセックスなんてとんでもない。
「耐えてる顔もかわいいですね。でも、せっかくならトロトロになってほしいなぁ」
「ぃ……!?」
「乳首もアナルも、俺が開発してあげます」
「待っ、なにし、ひ……っ。な、なに、ぅあ!?」
「ここ、前立腺……って、ハイネさんなら知ってますよね。ここね、中から押しても気持ちいいんですけど、こうして外から刺激すると、……ッ、はは、すごいな。信じられないくらいアナルが蕩ける」
子どものように喜ぶニゲルの顔をしっかり見ることは、もうできなかった。
ゴツゴツした大きな手のひらで下腹を撫でられた瞬間、信じられないようなビリビリとした刺激が皮膚から中に広がり、カクッと力が抜けてしまった。まるで雷撃を放つ魔獣や魔蟲 に触れたような感覚で、一瞬わけがわからなくなった。あまりの刺激に、腰だけでなく足もアナルもだらしなくなっているはずだ。
それなのに、わけのわからない刺激を受けた腹の中はビリビリが続いていて、とんでもなくうねっているのが自分でもわかった。そのせいで脱力しているはずのアナルまでも勝手に動いて、まるでペニスにチュウチュウと吸いついているような状態だ。
「ハイネさん、教え甲斐がありますよ。あぁ、これからが楽しみだなぁ。乳首にアナルに前立腺、もちろんお腹の奥ももっと気持ちよくしたいし、チンコもトロトロにしたい。……あー、やばい、俺ももう我慢できそうにない」
俺の両足を抱え直したニゲルが、ゆっくりとペニスを引き抜き始める。そのまま出ていくのかと思ったが、カリ首が抜けないギリギリのところで動きを止めた。
「ね、ハイネさん。もっと気持ちよくしてほしいですか?」
「……っ」
アナルの縁が、キュウッとカリ首に吸いついた。
「言ってくれれば、もっと気持ちよくしてあげますよ?」
ビリビリとした刺激に犯された腹の中がグネグネと動いている。大きな先端だけ含まされた縁が、これじゃ足りないと言うようにペニスにキュッキュッと絡みつく。
「おねだりしてくれれば、俺の太くて長いチンコで、お腹の中をトロトロにしてあげますよ?」
「……っ」
囁くような甘い声に、頭よりも体が先に反応してしまった。そうなった俺には、一つしか選択肢は残っていない。
ほしい。太くて硬い、熱くて大きい、逞しいペニスがほしい。
これで、俺を気持ちよくしてほしい。俺の中を、たくさん犯してほしい。
「ハイネさん?」
「……ほしい……」
「何を?」
「……ニゲルの大きいペニスで、俺を気持ちよく、してほしい……」
言い終わった瞬間、限界まで広がっていたアナルの縁が引きつるほど広がったのがわかった。
「ハイネさんは、おねだりも上手ですね。ご褒美に、トロトロにしてあげます」
押し潰すように抱きしめてきたニゲルにたっぷりとキスをされたあと、俺はトロトロどころかドロドロになるまで抱き潰された。悲鳴のような嬌声を上げながら、何度絶頂したかわからない。最後のほうは水のような精液しか出なかった気がする。
それでも体の中の快感は延々と続き、俺はずっと「イく、イく」とうわ言のように口走っていたような気がする。そのうち呂律も回らなくなった俺に、ニゲルは「かわいくて腰が止まらない」なんて恐ろしいことを言いながら、何度も俺の中に欲望を注ぎ込んだ。
手慣れていないかもしれないなんて、とんでもなく大きな間違いだった。俺なんかよりもずっと手慣れているうえに、とんでもない絶倫野郎――それが、初めてベッドを共にしたニゲルに対する率直な感想だった。
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