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第1話
1ー1 出会い
僕がグールド・ワイエス男爵と初めてであったのは、ロミリアム王国の北の果てに遅い春が来る頃のことだった。
国境沿いのラテナ山脈に降り積もった雪が溶けて辺りが薄いピンク色のライザの花の色に染まり始めたある日のこと、僕が住んでいるアナハイム辺境伯の屋敷へと巨大な飛竜が舞い降りた。
その飛竜を操っていた人物に僕は、視線を奪われた。
彼は、豪奢な黄金色の髪に深い緑色の瞳をしていた。
日に焼けた肌に金色の髪がとても映えていて美しくて。
だが、次の瞬間には僕は、はっとして身構えていた。
彼は、母様が今朝話していた悪魔だ。
彼、グールド・ワイエス男爵は、勇者だった。
まあ、もと、だけど。
彼は、女神に選ばれた勇者であり、長年人々を苦しめてきた魔王を討伐した後、王様から男爵位を賜りこの辺境の地にやってきたのだ。
彼が何者かを教えてくれたのは、彼の髪から覗いている丸い獣の耳と腰に巻き付いている黄金と黒の縞模様の長い尻尾だった。
彼は、亜人だ。
虎の獣人である彼は、魔王を倒したにもかかわらずこの国の人々から悪魔と呼ばれ恐れられていた。
このロミリアム王国ではまだ獣人は、恐ろしい生き物だと信じられているからだ。
「君は、アナハイム辺境伯の使用人か?」
僕は、彼にそう問われて頷いた。
本当は違うけど、ほとんどそうだから。
彼は、僕のことをまじまじと眺めるとにやりと笑った。
「私は、君の主の隣人となった者だ。君のご主人様は、ご在宅かな?」
「と、いや、あの、辺境伯は、お留守でございます。あの、領地の見回りに出掛けられていて、もう少ししたら戻られるかと思いますが」
「なら、待たしてもらおう」
彼は、僕に言うと僕が持っていた重い水の入ったバケツを奪い取った。
「どこに運べばいい?」
「あ、あの」
僕は、目的地もきかずに歩きだした男爵を追って歩きながら訴えた。
「困ります。これは、その、僕の仕事なので。あなたにさせてしまっては僕が叱られてしまいます」
「黙っていればバレやしないだろう」
彼は、僕の前を歩きながら応じた。
僕は、仕方なく彼を馬屋まで案内した。
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