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第2話

 1ー2 地竜  アナハイム辺境伯の屋敷の厩戸には、馬は、ほとんどいない。  ここにいるのは、馬より強い地竜と呼ばれる中型の竜だ。  地竜は、気性が荒く、扱いづらい。  その地竜を僕は、ほぼ1人ですべて世話をしている。  ここには、アナハイム辺境伯の騎士団の地竜がいて僕の責任は重大だった。  地竜は、敏感なので魔法を使うと暴れることがある。  だから、地竜の水やりは、こうしてバケツで水場からわざわざ水を運んでやらなくてはならない。  この地竜の世話を僕は、13才の頃からずっとしている。   「他に使用人は、いないのか?」  男爵に訊ねられて僕は、慌てて答えた。  「ここには、使用人は、たくさんいます」  「なら、なんで君1人で竜の世話をしている?」  「それは」  僕は、口ごもった。  これは、アナハイム辺境伯の正妻であるルイーザ様の命令だった。  「役立たずの居候には、ぴったりの仕事でしょう?」  そう、奥様は、13才の僕に告げた。  以来、地竜の世話は、ほぼ僕1人でしてきた。  魔法が使えないのでとても時間も労力もかかるし、つらい仕事だ。  でも、僕には、ここにいる理由があった。  僕の母様、ザラは、重い病で明日をもしれない命だった。  病の母様を置いてここからでていくことは僕にはできなかった。  「とにかく、これは、僕の仕事なので!」  僕は、男爵からバケツを取り戻すと地竜の檻の前の桶に注いだ。  「君の仕事、か」  男爵は、僕からバケツを再び奪い取ると、今度は、僕の手を握って覗き込んだ。  僕は、かぁっと頬が熱くなるのを感じた。  僕の手は、毎日の仕事のせいであかぎれができていて、ところどころ血が滲んでいた。  僕は、こんな汚い手が恥ずかしくて男爵の手を振り払おうとした。  だけど、強く握られていたので手を抜くこともできなかった。  「こんな美しい手を傷つけるなんて罪に等しい」  男爵は、僕の血に汚れた指に口づけした。  すると、僕の手がぽぅっと暖まり傷があっという間に癒えていく。  「あっ!」  男爵に引き寄せられて顔を覗き込まれた。  男爵の緑の美しい瞳と目があう。  まるで、引き込まれそうな深い緑色の瞳だ。

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