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第3話

 1ー3 口づけ  「は、離して・・」  僕が弱々しい声で言うと、男爵がはっと気づいたかのように瞬きして僕の手を離した。  「すまない。君があまりにも美しかったから」  はい?  僕は、男爵の言葉に思わず笑みを漏らしてしまった。  「何がおかしい?」  男爵に問われて、僕は、慌てて誤魔化した。  「おかしいなんて。ただ、その、あなたが変なことを仰ったから」  「なぜ、変なんだ?」  男爵が僕の腕を掴んで僕を引き寄せるといきなり唇を奪われた。  「ん、ぅっ」  僕は、彼の胸元をどんどん、と叩いて彼を押し退けると大きな声を出していた。  「僕は・・男、だ!この変態!」  「なんだって?」  男爵は、戸惑うような表情で僕を見つめた。  「だって、君は」  僕は、自分の着ている服を見下ろした。  ぼろぼろの薄汚れたドレス。  僕は、溜め息を漏らした。  「これは、アナハイム辺境伯家の風習です」  それは、本当だった。  この家では、産まれてくる男子はすべて女の子として育てられる。  それには、理由があった。  「そうか、これが呪い、か」  男爵が呟いた。  そう。  この家は、300年前から魔女によって呪われている。  アナハイムの血を継ぐ男子は、みな早死にする。  それが、魔女の呪いだった。  だから、男子は、みな女子として育てられるのだ。  「ワイエス男爵!」  僕の背後からアナハイム辺境伯の声がきこえた。  「こんなところにおられたのか」  「アナハイム辺境伯」  男爵が僕から視線をそらせると、アナハイム辺境伯の方へと歩み寄っていく。  アナハイム辺境伯は、俺を睨み付けると男爵に訊ねた。  「この者が何か失礼でも?」  「いえ」  男爵は、僕の方を見てにやりと笑う。  「とんでもない。ただ、少しお話をしていただけです」  「ならよいのですが」  アナハイム辺境伯は、冷ややかに告げた。  「気のきかない奴ですから。どうか、こちらへおいでください。お茶など用意させておりますので」  男爵は、ちらっと僕のことを見てからアナハイム辺境伯の後に続いて屋敷へと入っていく。  僕は、1人取り残されて立ち尽くしていた。    

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