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第1話

「ッッゔぇ、イッ、ぎぃぃ、いっ…!」 自分の中に入ってきた凶悪な圧迫感と痛みは、ドロドロに酔った脳を目覚めさせる。 「痛いか?」 「ゔっせぇ、えっ、い、だぐっ、ねぇ」 酔っ払って、ワンナイトなんて、何度もしてるが、抱かれる側は初めてだ。こんなにハツモノって痛いのかと思うが、コイツにそんな顔を見せたくはなかった。 「素直じゃねぇなぁ、こんな泣いて血出してんのに」 無理やり抱えられたまま、体の向きを変えられる。向けられた方は一面鏡張りの壁。 「いいぃ゛っ、なっ、なに゛すんだよ」 無理やり、寝バックから背面座位に体位を変えられたせいで、より深く中にそれが突き刺さる。しかも、鏡から目を逸らさないように顔を掴まれた。 たしかに、俺の顔は汁まみれでぐしゃぐしゃ、結合部からは血が出た痕跡もある。少し火に焼けた体には俺渾身のセンスの良いタトゥーの上に、無数の噛み跡、この馬鹿力に掴まれただろう鬱血痕、それと今までの戦闘の傷跡が、俺の美しい身体を彩っている。 「見た感想は?」 「やっぁ、ばぁ、俺、イッ…ケメン」 「余裕すぎ」 下からドンッと突き上げられた。全く余裕のない男だ。 この余裕のある男である俺ことティエン・テンチーは、めちゃくちゃセクシーでハンサムな男である。 「ティ、ェン、も、ぅ、余裕っ、ないな」 「はぁ、ぅ、せぇ、まだ、よ、ゆぅ、んんっ!」 人懐っこくセクシーな重めの奥二重、通ったセクシーな鼻筋、少し厚いセクシーな唇、そして唇の下にあるセクシーなホクロ、セクシーに鍛えられバキバキに割れた筋肉。デカい身長。そして、黒いウェーブのかかった髪がさらに男のセクシーを極限に高めている。 「んんんっ!耳、さわっ、なぁあ!」 「しっぽ、も、撫でてやるよっ、ん、きっ、つ」 しっぽを撫でられた俺は、そのゾワゾワとした快楽に背を仰け反らす。必死に見ないようにしていた、鏡に映る姿は酷くセクシーで、堪える顔はとてもイケメンだった。 俺は、全てがセクシーで、かっこいい。 何故ならば。それは、めちゃめちゃ強い虎獣人の血が半分流れてるから。自分の耳や尻尾が、それを表してる。顔もまたトラのように鋭く精悍なイケメン。 運動神経もそこそこあるし、性格も良くて、トークも上手いから友達も多い。 「いっぐっ、もっ、イッぐぅぅ、イ゛ぃ゛!」 「はっ、白目、向いてんぞっ」 「はげ、しぃッ、ん!ぁっ、たぃぃ、かえんなぁ゛」 更には、魔法銃という様々な魔法陣を埋め込んだ弾を打つ銃を使った競技でも大活躍してる。 特にその界隈の中でも、一発でどのぐらいの範囲を破壊できるかを競う爆撃競技で有名なのだ。 派手な一撃に男の夢が詰まった巨大改造銃ならば、俺に任せろと言われてるくらいだ。 「だらだら、出てるな、面白っ」 「し、んっ!かたぁ、なっ、ぃだろ!」 「いつも派手にぶっ放してるのに、精液はだらしない出方だな」 「お、まえがぁ、突ぅ…く、から!」 更には更には、俺の職業だが、表向きはイケメン傭兵、本職はマフィア&スパイという、まるでどこかのハードボイルドな物語から出てきたような華麗な主人公様。 こんな俺は、女にもモテるし、男にもモテる、悪いヤツはだいたい友達な俺なわけだ。 「んんんっぁああっ、んっ、ひぃ…」 「ケツ穴パッカリしてんな、俺のが溢れてるじゃん」 「あっ、まっ、で、指、いれんなぁ゛ぁ゛」 勿論、こんなかっこいい俺は、お酒も大好き。宴会大好き。サシ飲みも大好き。 昨夜も仲良い可愛い可愛いかっこいい弟分と飲みに来ていた。明日は休みだし、大好きな弟分と、楽しくなって、ベロベロで、気づいたら。 ちゅんちゅん、スズメが鳴く頃とっくに過ぎた時間に俺は目覚めた。 「イッ、デェ……」 起きて、汚い木目の天井。汗やらなんやらの匂いが染み込んだ掛け布団が大変暑苦しいが、指一本すら動かすのも億劫だ。 ああ、頭痛いし、体中も痛いし、何より下半身の中側が痛すぎる。喉もガラガラで、俺の素敵ハスキーボイスが無惨なもんだ。それにしても、一つムカつくことがある。 「ん?ぁ、ティエン、起きるの遅ぇな」 布団の外で風呂上がりであろう弟分が、俺に水の入ったコップを渡してくる。 この弟分は、ビンセイ・カイ。自分より5つも下で、フロスティブルーの髪がよく似合う、俺以上に筋肉バキバキで、かなり硬派な精悍な顔立ち。俺よりは身長低いのが悩みらしいけど、5センチくらい俺が勝ってないと割に合わないくらい、こいつもまた俺が認める数少ないイイ男だ。 「無理」 「まじで?」 指一本すら動かしたくない俺の返答に、弟分は少し困ったように顔を顰めると、ビンセイはコップの水を自ら飲んで、寝てる俺の顎を掴むと、乱暴にキスをする。口移しかと、唇を半開きにしてやれば、まるで激流のように冷たい水が流れ込んできた。 ああ、冷たくておいしっ。けど、量多すぎだろ。 ゴクゴクとその水を飲むが、流石にその勢いと量では、俺も受け止めることができず、案の定口の端から水は溢れ、枕をびしゃびしゃにした。 「溢してんぞ、せっかく介護したのに」 「おい、ビンセイ、こうなったのは誰のせいだか解ってんの?」 「当たり前だろ、俺以外は許さねぇ」 「お前以外にケツ掘られたら俺も嫌だわ」 そう言って、俺はチュッと軽く唇を鳴らす。すると、ビンセイは静かに布団の上に乗っかる。 「おい、ティエン」 「なに、また布団に戻ってきて、俺風呂入りたいんだけど」 「勃った」 「嘘でしょ、あっ、こらこら押し付けんなて、デッカ、腹立つ!」 「お前もまあまあデカいだろ」 「腹立つ!!!」 文句を言う俺の上に乗っかり、問答無用で俺の喉元に噛みつく。既に昨夜もたくさん噛まれて、腫れ上がってる場所を噛むもんだから、痛みで思わず呻く。ただ、この弟分はそんなの知らないと言わんばかりに、俺から布団を剥ぎ取った。 華麗なる美形な俺の魅力は、どうやら硬派な男すら狂わせるらしい。 その硬派な男ことビンセイは狂雪山脈を超えたところにある「白魔帝国」に住んでおり、何があったかのかは知らないが、俺たちの住む「永世の都」にある「享楽島」にやってきた男だ。 まだ、尻の青いガキだったコイツを拾って、ここの島の生き方を教えてやったのは俺様である。といっても、白魔帝国というヤベェ奴らがそこら中にいる国で住んでいたからか、すぐさま強くなってしまった。 そして、今じゃ部下も沢山いる新興マフィアのボスになってしまったのは、正直俺たちもびっくりしてるのだけれども。 「ティエン、俺仕事だからここで大人しくしてろよ」 「はぁ?お、れ、もアジト、行かないと」 「ああ、大丈夫、お前のファミリーには俺から伝えとくから」 そう言って出ていくビンセイ。その後ろ姿をズタボロの身体で頑張って見送った。部屋の扉がバタンと締り、カチャンッと鍵が掛かった。 「さてと、よいしょっと」 ぐわりっと身体を起こし、ホテルを見渡す。 油断したな馬鹿め。獣人の回復力舐めるなよ。 しかし、本当にこのままだとホテルに監禁されかねない。ベッドから立ち上がり、自分の着ていた服を探す。ギシギシと様々な関節が発する痛みをなんとか堪え、ホテルの部屋を隈なく見ていく。 「あ、こりゃ、持ってかれたわ」 しかし、服という服はどこにも見つからず、なんならバスローブすらない。これは確実に俺を外に出す気がないのが伝わってくる。 全く俺って、なんて罪な男だ。 窓のブラインドから下を見る。どうやら高級ホテルの高層階にいるよう。窓の外には俺たちが住む享楽島の美しい街並みと海が広がっている。 白い漆喰の壁の連なる家、色褪せた青色の屋根、それがうねうねと美しい線を描いており、そこから自然と海につながっていく。 「見栄えはいいよな、この街」 手元にタバコがあれば、この窓を開けて、潮風を浴びながら外の景色を楽しみつつ、一服したいぐらいの気持ちだ。まったりしていたそんな時、自分の目の前を羽根の生えた人間が何かに逃げるように通り過ぎ、その後ろを大層見覚えのある羽根の生えた熊が追いかけるように通り過ぎていった。 この世界は、本当に色んな生き物が住んでいる。 特にこの享楽島は特に色んな生き物が住んでいる。この島で外の身分は必要ない、どんな逃亡犯でも、島の住民に気に入られれば簡単に仕事にありつける。気に入られなくても、強いか賢いかすれば、この島でそこそこの暮らしはできる。 俺もその生き物の一匹だ。混血の獣人なため、他の国だと相当生きづらい俺も、親と離れ逃げるようにこの国に来て、今のボスに拾われてから髄分時間が経った。 普通の獣人なら完璧な人間になれるのだが、俺はよほど集中しないと虎耳、虎のしっぽを隠すことが出来ない。コントロールが上手くできないのも、祖国では相当言われたが、この島では可愛いチャームポイントでしかないし。 俺を拾ってくれた所属するマフィアのボスも、俺の虎の毛皮が好きなようで獣化して虎になると、よく撫でてくれる。ビンセイも、幼い頃はよく虎になった俺と寝ていたもんだ。純粋にな、なんであんな普通の女だったら泣きそうなひでぇセックスなのかは、俺の教育不足かなと、嘆いちゃうけども。 「てか、息子みたいなアイツと、エッチした俺ってちょっと罪深きすぎじゃない?」 そんなことをふと考え、俺はやっちまったなあと笑った。けど、やったところで罪にはならないから、正直気にしてないし、まあまあひでぇし痛いセックスでしたがこれはこれで楽しかったなと。 「さてと、さっきのバカクマか、誰か来てくれたら俺、ちょー助かるんだけどなあ……無理だよなあ」 俺はマッパのまま、ゆっくりとホテルの扉へと向かう。多分外にはビンセイの部下がいると思うけども、一人くらい服貸してくれるだろうと期待を込めた。

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