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第2話
「やっほー俺様の帰宅だぜ!!!」
既に日が暮れかけた古城の窓から、登場した俺に部屋にいた家族たちは呆れたようにこちらを見る。
この古城は、俺たちのアジト。場所はあの海へ繋がる白い町並み…とは、反対の場所にある森の方。その中にあるいくつかの古城の一つが、俺たち「シアモ・リベリ」の寝蔵である。
いつも使う談話室の中には、ボスを合わせて5人ほどが、自由にぐぅたらと過ごしていた。
「おかえり、できれば普通に入り口から来い」
笑って一番偉そうな椅子に座って、書類仕事をしているのは俺たちのボスだ。黒髪に薄い顔立ち、そして長く先が尖った耳が特徴である。元々はエルフという種族で生まれ、色々あってそこから追い出されたと昔聞いた。
この享楽島でも珍しい種族の住人である。その隣には、黙々と同じく書類仕事をしているスーツを着たガタイのいいスカーフェイスなナイスミドル執事こと、アイバーは俺を一瞥するだけだ。
「おっ、馬鹿が帰宅した、ってことは、あのガキ逃げられたか」
「あの男も爪甘いよね〜」
小さい男の発言に、大きい男が反応してゲラゲラ笑う。小さい男は俺より年下でドワーフと人間のハーフのミリオン。大きい男はピンクキノコ頭若作りな自称手長族のワンタオ。どうやら、二人は仲良さそうに二人でカードゲームをしているこか
「うっせぇ、赤ちゃんと年齢不詳ジジイのくせに生意気だぞ」
「誰が赤ちゃんだ!」
「ジジイだぁ!?はん、三十にもならないそこそこの尻青いガキなんざに言われたかないね!」
ミリオンは俺の2つ下の26歳だが、その見た目は頑張っても十五歳程度。ドワーフが小柄な上に、人間の血でドワーフのようなフケ顔が少し緩和されてしまってるせいもある。ワンタオは年齢不詳。ここにいるボスやアイバーの少し下らしい、しかし、見た目はミリオンと同い年にしか見えない。
それにしても、いつもより少ない事務所内を見渡す。
「あれ、ケイとか、ディトは?ハジーとロクスケは遠征だっけか?」
居るだろうと思ってたメンツの名前を上げてボスの方を見る。ボスは相変わらず書類を見たまま口を開いた。
「ケイは愛しの狐ちゃんのところに会いに、ディトは仕立て屋に服新調してもらったらしくそれを、あとその二人は昨日帰ってきたが怪我したらしく、今ジェノの友達に診てもらってる」
「怪我したのか大変だな。てか、ケイ、また行ってんの?まあ、情報交換にはたしかにケイが一番いいけど……あ、俺の服もディト持ってきてくれねーかな、頼んでんだよね」
今ここにはいない家族たちの話を聞き、何人かは当分会えそうにない。特に大親友のケイは、久しく会ってないもう一人の親友のところに行ってるようだ。あと、俺の子分には念で服を届けるようを伝える。そんな能力は俺にはないが、俺の子分なら伝わるはずだ。
「思えば、ミリオン、ビンセイここに来たのか?」
「ビンセイとこの下っ端が来たんだよ。まあでも、その感じだと脱獄してきたようだな」
そういうと俺をつま先から頭まで見るミリオン。それもそのはず、俺は今ビンセイの部下が着ているスーツを強奪してきた。丁度背丈が似てるやつがいたので、拳の会話をしたら譲ってくれたのだ。
まあでも、ちょっと俺のボン・キュッ・ボンな最強かっこいいボディに、マッチする服はなかなかない。なんならアジトに向かう途中で、スーツの下に着ているシャツの胸の第二ボタンは弾け飛んでしまった。俺の胸筋は最強すぎたんだね知ってる。
どやっとその美体でポーズを取ると、丁度俺と目があったボスが呆れた顔で口を開いた。
「それにしても、そのスーツとかお前が着てるとなんとも言えないな、見ていて違和感が凄すぎる。早く着替えてこい」
「ええ、本当に、だらしないので早く着替えなさい、ティエン」
「ボスだけならまだしも、アイバーまで……へいへい、着替えてきますよーだ」
全く、こんなセクシーな俺の格好に、こうも冷たくできるのはこのファミリーだけであろうも思う。巷なら男女問わず俺のセクシーさにキャーキャー言ってくれるのに。
まあでも、自分もまた素っ裸で歩くわけにもいかないからと、この不満だがいつもは着ないシンプルスーツを強奪をしたのも事実。だから、俺は適当にひらひらと掌を振ると、さっさと自分の部屋に向かった。
古城の暗い廊下を進み、階段をひたすら登り、たどり着いた一番金ピカで派手な扉をした部屋に入る。部屋には自分の趣味で埋め尽くした虎柄の派手な部屋で、天蓋付き豪華絢爛なベッドが真ん中にドーンと置かれていた。そして何よりも四方八方に置かれた鏡は美しい俺を映している。
とりあえず服を適当にポイポイーと全部脱ぎ捨てる。やはり俺にはあんな窮屈で堅苦しい格好は似合わない。
鏡の前でモデルのようにポーズを幾つか披露する。こんな美体を見れて、鏡も喜んでいるだろう。
そして、そのまま部屋の窓を開けた。既に夜になった外は海へと続く人々の灯りが、夜の波を彷彿させる。
「明日は久々に練習でもすっかなー」
部屋の窓から潮風を浴びる。地味にビンセイに噛まれて少し傷になった肌がちりちりと痛んだ。全く、これだからおこちゃまはいけないなーと肩を竦める。
まさか、殆ど息子や弟といったほうがよいビンセイとワンナイトぶちかましてしまうとは思わなかったが、これはこれで面白かったと思う。エッチの仕方は教えないと今後アイツが下手こきそうだなとは思ったが。
窓の近くに置いてあるキャビネットに行き、適当に煙草を手に取る。虎の絵が描かれたパッケージの煙草は、今遠くでスパイ活動をしている親友が、帰省時に土産としてくれたものだ。
もう数少ない一本を口に咥えたあと、マッチで火を着け、肺の奥深くまで煙草を吸う。
はあっ。
少し甘いその煙草の煙が、窓の外へと流れていく。
多分今日が楽しかったのだから、明日はきっとまた楽しいことが出来そうだ。
そう思いつつ、俺が昼までお世話になったホテルの方見た。
「あ、あれ?ビンセイか」
俺のとても良い視力で、馴染みのある青色がホテルの屋上にいるように見える。こんな暑い時期に、大層な白い毛皮を着た青髪なんて一人しかいないのだから。
向き的に、どうやら、こちらを見ているよう。
俺はビンセイにひらひらと手を振った後、ゆっくりと窓を閉める。
明日はもっと楽しいことになりそうだ。と確信した俺は、そのまま風呂場へと直行した。
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