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第77話 出会いの定理
「青葉!」
グリーンが空港に来てくれたのはそれから二時間くらい経った頃だった。
面白かったぁ。
慌てたグリーン。
SNSにアップしてすぐ、グリーンからパニックな電話がかかってきた時なんて、すごかったんだ。日本語なのに、途中に「オーマイガ」とか流暢な英語の独り言が入っていて、慌ててるのが、見えないのに頭の中でしっかり浮かんじゃって、僕は逆に冷静っていうかさ。こんな長旅を一人で達成できたことに感動っていうか、なんか、びっくりしてて、本当に二カ国後話せるんだなぁって、のんびりしながら思ってた。
途中、あのグリーンが何度かどこかに足とかをぶつけたりしてたのかもしれない。痛いって、英語でだけど呟いていた。
そんな大慌てのグリーンがすごくすごぉく面白くて、グリーンが慌てれば慌てるだけ、僕はのんびりしていた。
「おーい! グリーン」
君はこんなにたくさんの時間をかけて来てくれたんだなぁって。飛行機の乗り継ぎを二回もしてさ。ね、あの乗り継ぎ、すっごい緊張した。だって、着いたら一時間くらいで次の飛行機が飛んじゃうんだもん。迷子になってられないじゃん?
「あ、青葉!」
「うん」
大変だったでしょ?
「なんでっ、青葉」
「うん」
すごい大冒険だったよ。
「ここっ」
「うん」
大変だ。あのふんわり笑ってくれる超絶かっこいいグリーンが大慌てで、片言で、もう、とにかく驚いてる。青い瞳は僕を見つめて、本物? って問うかのように何度も何度も瞬きを繰り返した。
「君に会いたくて、ここに来たんだ」
あの時、グリーンがそう言ってくれた。
僕はロマンチックが凄すぎて、あの時、びっくりしまくってた。
「出会いの定理、知ってますか?」
「青葉……」
「一度目は突然」
突然、同人誌即売会に現れた金髪のイケメン。
「二回目は偶然」
大学で再開。
そして僕は君に恋をした。
「三回目は」
「必然」
恋をした僕は君に会いたくて、ここまで来たんだ。
「なん、」
なんで? なんて、決まってるじゃん。
「グリーンのこと」
「……」
「大好きだから」
それを告げて、僕は空高くへと飛び立った飛行機に負けないくらい両手を広げて、今にも飛べちゃうんじゃないかってくらいに広げて、君のことを捕まえるために力一杯。
「グリーン」
抱きしめた。
「すごーい……」
車の外には一面畑が広がってる。
むしろほぼ畑。畑しかないってくらい。
「空港は栄えてるけど、一歩外に出たら田舎だよ」
グリーンが僕の隣で笑ってる。
「でも素敵なところだ」
「……青葉」
「グリーンが生まれて育ったところ」
隣にいてくれることが嬉しくて、僕はずっと窓の外に顔を出しながら笑ってる。
「グリーンが運転してるとこ、初めて見た」
「こっちじゃ車の運転できないと暮らしていけないから。最寄りのコンビニまで車で二十分」
「え? そんなに?」
「田舎だからね」
確かに本当に何もなくて永遠、畑が続いてる。
「これ全部、麦畑?」
「そう」
じゃあ、これが種まきを終えて芽が出てきたら一面緑色なんだろうなぁ。
「……しばらくSNSで何も呟かないから心配してた」
「うん。あえて呟いてなかったんだ。バレちゃうじゃん? にしても、たっかくてびっくりした。お年玉貯金めっちゃ使った」
「原稿が忙しいのかなって、バイトがずっと入ってるとか、って」
「うん」
「それかアカウント移動しちゃったのかもしれないって」
「……」
不安だったって顔で苦笑いを溢した。
「……青葉」
「アカウント引っ越ししたら、グリーンに教えるに決まってるじゃん」
「……うん」
「それにしてもすごいね。大冒険だったよ。けど、ここをグリーンは通ったのかなぁ、ここのお店は寄った? とか考えてさ」
「……」
「すごいね」
こんな遠くから来てくれたんだなぁって。
「すごいねぇ」
僕に会いに来てくれたんだぁって。
「……」
笑うと、君はじっとそんな僕の笑った顔を眺めて、そっと車をはじに寄せた。
「グリーン? どうかし、」
どうかしたの? って、訊こうと思ったけれど、やめた。
「本当に田舎なんだ。何もなくてさ。信号だってないから、運転してる最中、車が赤信号で止まることもない」
君の手がそっと僕に触れたから。頬を撫でて。耳を指の外側で撫でて、そっと、そーっとまた頬を、今度は包み込むようにしながら、耳をくすぐって、うなじを撫でて。
そっと。
「青葉にキスしたいのに……信号ないんだ」
そう言って、唇にキスをした。
久しぶりのキスは触れた瞬間、ふわりと花びらが舞いそうなくらい嬉しくて幸せで、ふわふわで。
「本物の青葉だ」
「何、それ」
「君に会いたくて、会いたくて、たまらなかったから、夢なのかと」
「夢じゃないよ」
しどろもどろになりながらもさ、頑張って初海外に来ちゃったんだ。しかも、突然。しかも、悪口じゃないけど、超マイナーな州。しかも飛行機の乗り継ぎ二回もしちゃうし、移動時間十時間越え。
すごいよね。
「うん、夢じゃなかった」
「……グリーン」
「君がここにいる」
恋のパワーってすごいんだ。
「青葉がここに……嘘みたいだ」
ねぇ、この笑顔が見られただけで、途中すっごい緊張しまくって、何度か泣きそうに不安で、ものすごく大変だったけど、そんな全部が吹っ飛ぶくらい、あ……貯金も吹っ飛んだけど、そんなのどうでもいいくらい、ここに来てよかったってそう思ったよ。
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