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夏だ!編 3 晴れ渡る青空

 グリーンの王子様ポジションは相変わらず。  大学での人気もすごいんだけど、グリーンのイケメンスパダリオーラはこんな山奥にある大学くらいじゃおさまるわけなくて。そりゃもう……大変で。  僕みたいに背も小さくて、存在感も小さいのは隣を歩いていたとしても女子のハート型の瞳には入りもしないらしく、弾かれちゃうくらい。だから、大学では少し距離があったりする。  何より彼女たちが目をハート型にしちゃう理由、そしてその人気は収まるどころかどんどんと増加している原因の一つ、それはグリーンに彼女系の噂が全くないこと。女っ気というか、とにかくそういう恋愛ものの噂が全くないのもあるんだと思う。  まぁ、そりゃそーです、いるのは彼女じゃなくて、女子じゃなくて男子だから。  だからみーんなの視界に入ることはないけれど、女子の大群に弾かれて飛んでっちゃうけど、その飛んでっちゃったちっこいのが彼氏なんです。 「ありがとう……ございます……秋までには終わるかなって……思います……送信」  だから、大学構内では順調交際一年目が過ぎても、大学ではあんまり一緒にいることなくて、変わらず、この資料棟の裏手にある日陰の階段のとこでミニミニデートが基本。  でもこのミニミニデートも冬の間は日陰のこんな場所は極寒すぎて、ただの我慢大会になっちゃうからできないし。春になってようやく日陰でも凍え死ぬ心配がなくなったって思った矢先、今度は梅雨で、ほぼほぼ雨だったからその間もできなくて。  最近やっとかな。日陰気持ちいいって思いながら、ここでグリーンと過ごすようになったのは。  もちろん交際中なんで大学終わればグリーンとこで一緒に過ごすけど。  今日だって、いつも通りに大学が終わったら、寄っていって原稿の続きをがんばる予定。  交際も順調。  原稿も順調。  スマホで時間を確認すると、もう講義が終わっただろう時間から五分過ぎてた。  多分、また女子に捕まってるんじゃないかな。  山本がサイン会開いて、グリーンのサイン有料販売とか行うことができたら、結構儲かるんじゃないか? なんて、とんでもない悪党みたいなことを考えるくらい、本当に人気だから。 「わ、モリさん、リプはやっ」  だから、まだ来ないかもね。基本、すっごく優しくて、誰にでもマジで優しいから。断るなんてきっとしない。  ――新刊もすっごく楽しみですが、オフ会もめっちゃ楽しみです。 「あー……あはは」  モリさんってさ。  女子、だよね。  多分。だから、ちょっとだけ乗り気じゃない自分がいたりする。だってグリーンも一緒だから。もちろんそのことは了承もらってる。グリーンにも、モリさんにも。  でさ、きっと、見たらテンション上がっちゃうでしょ? グリーンのイケメン度にさ、クラクラしちゃうでしょ?  好きに、なっちゃうかもしれないでしょ? いや、ならないわけないでしょ。グリーンのこと好きにならない理由ないもん。  でも、断るのも苦手で。  そうしてオフ会は開催予定に変更なし。  そのままずるずると時間だけが過ぎちゃってる。  ――ですね! とりあえず、秋の新刊頑張ります!  ガッツポーズ。  で、リプ送信。 「……はぁ」  公表とかしちゃおうかな、なんて。  腐男子でさ、繋がってる相互の人はもちろんBL好きな人ばっかりなわけだし。その辺寛容だと思うんだよね。で、公表しちゃえばさ、こういうオフ会の時に変な心配っていうか、変な考え事っていうか、ヤキモチ、しなくて良くなるでしょ? 「……」  けど、やっぱり身バレがなぁ……怖いよね。  一応さ。  まぁ、イベント出てるから、そこにもしも同じ大学の人がいれば、あおっぱ。が僕って顔見ちゃえばわかるんだけどさ。  それからこんなに色々考えるならそもそもオフ会なんてしなければいいのにって話なわけで  でも、ファンがいるって嬉しいんだもん。逃したくないっていうか、せっかくこんな豆粒サークルの新刊楽しみにしてくれてるんだもん。大事にしたいって思っちゃうよ。  モリさんの地元が今回僕らが行こうとしてるグランピングの近くだった。大昔は寂れたただの牧場だったらしいけど、最近は丸っと綺麗でお洒落なグランピング施設にリノベーションされたらしい。たまにタレントさんが出てる旅行番組とかでも紹介されるような有名スポットになってた。  そこに行くことになりましたーって呟いたら、そこ地元です! って返事が来た。  うちの地元にあおっぱ。先生が来るなんて信じられない、サイコー! って、話しかけられた。  で、もしよかったらオフ会しませんか? って。  友達、一緒なんですって、返事にしばらく迷ってから、返事して。  そしたら、全然かまいません! 本当は人見知りなんですけど、あおっぱ。先生に会えるなら、そんなの言ってられないですって。  なんか、そこまで言ってくれて喜んでもらえることが嬉しくて。  ――じゃあ、よろしくお願いします!  そう答えちゃったんだ。  グリーンもオフ会一緒に参加するって言ってくれてるし。全然、なんていうか、その心配するようなことなんてないんだけどさ。  なんだけど……。  もや。  そんな感じにモヤモヤしたりして。  スマホを見るとあとちょっとで十分。 「青葉!」  捕まりすぎじゃないですかー? そう気持ちの端っこの辺りから小さな、でも、一向に現れないグリーンへと文句を呟いた瞬間。 「ごめん! 待たせた!」  めちゃくちゃ息を切らして登場してくれたグリーンに、一瞬で、ほんの一瞬で、もや、が消えて、胸の内でもくもく育っていた灰色雲が、サーっと飛ばされて、気持ちいっぱいに青空が広がっていた。

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