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夏だ!編 5 「好き」が二年生

 別にモテたいわけじゃない。  そもそもモテる「人材」だって自分のこと思ってないし。だからモテ願望は全くない。ないんだけど……ね。  そうじゃなくてね。  なんていうか。  ――俺のもんなんで。  そう、これです。これこれ。  こういうの、されてみたいっていうか。  もしもこれをグリーンに言ってもらえちゃったら、俺、心臓止めちゃえる自信あります。 「はぁ」  萌えが溢れて溺れちゃうだろうなぁ。 「はぁぁ」  あわあわしちゃうんだろうなぁ。  この下層オメガの彼みたいに。「な、な、な、何、言ってんの? お前、自分がどれだけすごいのかわかってないだろっ」そう言って慌てちゃって、真っ赤になったところをさ。  来るんです。名台詞が来ちゃうんです。  ――関係ねぇ。お前だけが。 「…………ぐはっ! ほし、ほし……」  リアルで普通の人に言われちゃったら吹き出して笑っちゃいそうな激甘セリフ。もしかしたらイケメンだとしても「へへへ」なんて笑っちゃうかもしれない、でもBL界だからこそ萌えになるこの名セリフ。  けどこれをグリーンに言われたら、心臓止まるどころじゃないかもしれない。もしかしたら溶けちゃうかもしれない。だってあのグリーンがね、このキングアルファの攻め様みたいに切羽詰まった顔して、ぎゅっと怖い感じで、余裕ゼロで、ぎゅーって、壁ドーンってしてくるなんて。  もう、とろけるんじゃなくて溶けちゃう。 「ったは!」  想像しただけで、やばいです。 「そんなによかった? 今日買ってきたの」 「!」 「すごい顔して読んでる」  え? 俺どんな顔して読んでました? 「青葉のリアクション見てると楽しい」  楽しいの?  怖くない?  大丈夫?  グリーンがにっこりと微笑んで、冷たい麦茶を出してくれた。そうそう海外では麦茶にもお砂糖が入ってることがあるんだって。もちろん緑茶にも。だからこっちのさっぱりしたお茶に感動したらしい。 「買ってよかったね。すごく楽しそう」 「!」  楽しい、です。やっぱりアルファのこの強い感じがたまらんです。そして、やっぱり巣作り最高です。ごちそうさまです。なんで毎回見つかるかなぁってくらい巣作り現場にアルファが遭遇する。そうじゃないとお話にならないんだけどさ。まぁ、僕のこの前見つかっちゃったけど。残念なことにオメガほどのえろすもフェロモンもないけど。巣作りしてるオメガがアルファに見つかっちゃうところまでがワンセットなんです。グリーン変換して萌えてます。萌え溺れる寸前です。 「あとで俺も読みたい。その作家さんの他の買ってみようかな」 「あ」 「んで、青葉と交換」 「そ、そのうち、ぜひ」 「うん」  もう読み終わっちゃったけど、でも、今すぐ貸しちゃうとなんというか、俺の脳内妄想がバレてしまいそうな気がして。いや、バレるわけないんだけどさ。滲み出て漫画の紙に染み込んでそうな気がして、そそくさと鞄の中にしまった。 「原稿大丈夫そう? 来週、旅行だけど」 「あ、うん」 「そっか」 「うん」 「オフ会、楽しみ?」 「あー……うん。まぁ」 「そっか」  楽しみ、かな。自分の作品読んでくれる人と話す機会なんて滅多にないから。けど、女の子だから、ちょっと微妙なとこもあって。でもお昼一緒にするだけだし。たったの一時間とかだから。もしかしたら外国人は苦手! っていう場合もあるし。  だから、そしたら、グリーンがモテちゃうことはない、かなって。  心狭い、よね。  自分の彼氏がイケメンって褒められるの嬉しくないわけじゃないのに、独り占めしたくてたまらなくて。俺のって駄々っ子になっちゃいそうで。おかしいよね。なんだってさ、独り占めはしちゃいけないことなのに。  わかってるし。わきまえてるよ。だから、大学でもあまり二人っきりが確定の時以外は話しかけないようにしてたりして……。 「青葉?」 「! あ、ううん! ごめん! なんでもない! 原稿頑張る!」 「うん」 「来週の旅行までには線入れできるとこまで持って来たいからさ」 「うん」 「よし! 麦茶ご馳走様!」  そして、一気に麦茶をBLで溢れそうな萌えと一緒に喉奥に流し込む。さぁ原稿頑張るぞって、気持ちを切り替えてタブレットに向かうと空になったグラスを片付けてくれた。  ありがと、そう言うと、ニコッと笑ってくれて。  その笑顔が優しくて。  グリーンの笑顔が僕はすごく好き。  けど、見てみたくなる。  いっつもにっこりしてくれるからこそ、見てみたいんだ。  グリーンのことを好きになったのはちょうど去年の今頃だった。ちょうど暑い日が増え始めて、資料棟裏手の日陰がちょうど心地良く感じられる頃で。 「新刊、すごく楽しみだよ」  僕、あの頃よりもさ。 「うん。頑張る」  ずっとずーっと、もっとずっとグリーンのこと好きだ。  あの頃の好きよりも今の好きの方が断然大きくなったんだ。  だから欲張りな僕は君の色んなを独り占めしたくなってる。  怒った顔も、優しい顔も、楽しいと笑ってくれる顔も、もちろん、変な顔も。  全部全部、僕のものにしたくなる。  そして今は、笑ってくれるグリーンの、とてつもなく綺麗な顔立ちに、特にヤキモチ名台詞をもらったわけじゃないのに、その笑顔に溶けちゃうかと、思った。  君が一年前よりずっと大好きなんだって、思った。

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