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夏だ!編 13 朝焼けは君の瞳の中

 朝、四時……くらい、かな。五時かもしれない。  もうちょっとで朝になる、もうちょっとしたらみんなが動き出す。でも、まだ世界は静かで。  なんて説明したらいいんだろう。  まだ、人間は寝てないといけない、けど、ほかの動物とか虫とか鳥はもう起きて活動し始めてて、ふとその気配に目を覚ます感じ。  そしてこの時間はまだ人間のものじゃない感じ。 「ん……」  不思議な時間に目が覚めた。  驚くくらいに静かな時間なんだ。 「……」  静かだけど、ちょっと風変わりな静けさ。他の動物も植物も、生き物たちは活動し始めてる頃だからかな。  静かなのに、なんとなく濃密な気がする時間。  普段、僕の生活の中にはない静けさ。  でもちょっと懐かしいんだ。この感じ。 「グリーン」  そっとベッドを抜け出して、カーテンを開けると、まだ眠っているグリーンを呼んだ。 「……青葉?」 「すごいよ。外」 「……」  空は不思議な青色に朝の日差しの明るいオレンジとピンクを混ぜたような色が滲んでる。  そっか。  昨日、あんまり夕焼けとか気にしなかったけど、ここ、僕らのテントは東向きなんだ。朝焼けの方にテントが開けているんだ。 「出てみようよ」  そっと、外に出ると、空気のみずみずしさにびっくりした。  なんだろう。  木がたくさんあるからかな。空気の密度がとても濃密な気がする。  空気が美味しいって、本当にそう思った。  その空気を胸いっぱいに吸い込んで、テントのそばに腰を下ろした。テントはウッドデッキの上に立っていて。そのウッドデッキが芝生の地面から、一メートルくらいかな。高くなっている。その高いところから足を投げ出すように下ろして、ぶらんぶらんと足をバタつかせながら、座ると、風がまたふわりと僕らの隙間を走っていった。 「ね、グリーン」  グリーンは金色の明るい色の髪を爽やかな朝露混じりの瑞々しい風に、揺れた。その黄色の髪にも空の青色が混ざってるみたいに、少し青みがかかって、綺麗。瞳は朝露みたいに濡れて、普段も宝石みたいに綺麗な色を更に濃く、深い色合いになっていた。 「ちょっと、懐かしくない?」 「……ぇ?」 「全然違うとこなのにさ」  畑と山じゃまるで違うのに。 「グリーンの生まれ育ったあの場所の感じに似てるよね」  そう思うでしょ?  そういうとびっくりしたのか、目を、深い緑と青が混ざったような、地球みたいな色をした瞳を丸くした。 「綺麗だね」  君も、朝焼けの空も、あと、ちょっと大袈裟だけど、世界も。  風が気持ち良くて、目を閉じながら、その風に触れるように背筋を伸ばした。匂い、感触、心地。それを堪能するように、目を閉じて。 「うん」  グリーンの声がすぐ近くで聞こえた。 「綺麗だ」 「!」  僕を見て言わないでよ。  なんだかそれじゃ、僕が綺麗みたいじゃんか。 「青葉」 「は、はい」  何?  じっと見つめて、さ。 「なんでもない」 「え? 何?」  話があるから名前呼んだんじゃないの? 「なんでもないよ」 「ちょ、なになに」 「……本当はかっこよくなんかないよ」  静かだから、グリーンの小さな呟きの声色に気持ちも、見える気がした。ダサいんだって、自分に呆れて、笑ってる。 「青葉が大好きなスパダリアルファにはほぼ遠い……」  そう呟くグリーンの金色の髪を爽やかな朝の風が揺らしていたずらをする。鼻先をくすぐって、その綺麗な青い瞳を隠してみたりして。 「そんなことないし」  ちっともないし。  未来なんてわからない。女の子が恋愛対象だった僕が、今、どんなに、たとえばアイドル級に可愛い子に告白されたとしても、ごめんなさいって言って断っちゃう。そんなの高校生だった僕は想像もしてなかったよ。BL読みながら、山本とワイワイしてた頃の僕は想像もしなかったし。自分がそのBLをしてて、尚且つ、相手はそのBLから飛び出したような超絶スパダリ、もうアルファでしょ? ってくらいのイケメンだなんてさ。想像できるわけない。  だから未来なんてわからないけど。  でも、一つだけ確定してる未来もある。 「グリーン?」 「? うん」 「どんなグリーンも大好きだよ」  君をもっと好きになる。 「別にグリーンを困らせたいわけじゃないけど、ヤキモチしてくれたの、めちゃくちゃ、めっちゃくちゃ嬉しかったし。萌えましたのでー!」 「ちょ、青葉、早朝! 声が」  恋愛二年生になる。そして来年、三年生の僕はもっとずっと君のことを好きになってるよ。 「焦ってるグリーンも見れた」 「!」  えへへ、そう笑って、宙ぶらりんになってる足を子どもみたいにブンブン振って、青色の朝の空気を足元でかき混ぜる。 「グリーン」  覗き込むと、その青い瞳がきらりと光って、まるで。 「大好き」  綺麗な青色の朝焼け空に差し込む陽の光みたいで。 「俺も青葉が」  好きと囁く唇に見惚れながらキスをした。  優しい、優しい、朝チュン設定のBLみたいに可愛くて、甘くて、あったかいキスをした。 「ぶは! トモさんがめっちゃはしゃいでる」 「……」  帰りはレンタカーで少しドライブして、おみやけを道の駅と、昨日、イチャイチャしてる最中に聞こえたアウトレットで買って、それから電車に。  その電車の中、SNSを開くと、トモさんが昨日はありがとうございましたって文字どころか文章さえ踊ってそうなメッセージをくれていた。 「俺もフォローされてる……」 「あはは、これで僕らの会話とかで萌え堪能」 「……いらない」 「えぇ? なんで? いーじゃん。BL好み似てたし」 「………………青葉とだけ繋がってたい」 「……………………」 「俺は青葉がいれば、………………青葉? どうかした? 体調」  何それ。 「も」 「モ?」 「萌えがすごすぎて、死んじゃう」 「死っ? それは困る」  だって、僕とだけ繋がってたいとか、昨日、たくさんつながった直後だと、いろいろ妄想が湧き起こっちゃって止まらないから。っていうかここが電車じゃなかったら、ゴロゴロ転がって部屋の中で暴れてるから。 「ごちそうさまです!」 「いや、それもモブのセリフだ。青葉。青葉に言ってるのに」 「ぎゃああああ」 「それから静かに」  ここで、キスで言葉塞いじゃうとかね。最高です。乙です。ゴチです。 「!」  そして、ここ、電車、です。 「青葉が可愛すぎ」  キス、いただきました。 「ごちそうさまでした」 「っぷ、青葉真っ赤だ」  それはグリーンもです。  グリーンも赤くて、すごくすごく、可愛かった、です。  秋の、イベントでの新刊、まだまだペン入れの真っ最中。だから追加しとこ。ヤキモチ最高ってワンシーンを追加で描こう。まだ夏休みは始まったばかりだから、多分間に合うでしょ。僕らの夏休みは、まだこれから――。

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