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プロローグ 平川side
平穏に、目立たないように、と今日まで過ごしてきた。
僕の何がいけなかったのだろう。
目の前に立ちこちらを睨みつけてくる、強面な男を見て、「ああ、神様はやっぱりいないのだ」と僕は悟った。
今日は朝から調子が良くなかった。でも、まぁ休むほどでもないだろうと甘く見たのがいけなかった。
学校で授業を受けているうちにだんだんと悪化していくのが自分でもわかる。頭はふわふわとしていて授業の内容は頭に入ってこないし、若干、目も霞んでいるように思える。
(ちょっと辛くなってきちゃったな…これが終わればお昼だし、保健室は危険だから別館の空き教室にでも行こう…)
曖昧になってきた意識の中で、そんなことを考えていた。
保健室が危険というのは、過去に自分が身をもって体験したことだ。
前にも、学校で気分が悪くなったことがあり、耐えられそうになかったので、少し横にならせてもらおうと保健室に向かった。しかし、そこはとても休めるようなところではなく、怖い顔の男たちが集まり、完全に溜まり場と化していたのだ。
(あんな所に行ったら、休むどころじゃない。むしろ何をされるかわからない。)
だから僕は、比較的静かで人もほとんどいない今では使われていない別館を選んだのだ。
(あそこなら誰もいないし、ゆっくり休めるかな。ちょっと休めば少しは楽になると思うし…)
そう思いながら歩いていた時だった。ちょうど別館へ行く渡り廊下の途中、不意に視界が歪んで体が傾いた。しかし、意識がはっきりしていなかった僕は気づけなかったのだ、前方から来ていた人影に。
気づいた時にはすでに遅く、その人影は僕がちょうど傾いた時に横を通り過ぎようとしていた。もちろん僕が避けられるはずもなく、傾いた僕の体は、その人影に軽く当たってしまった。
「ってぇなぁ!」
「っ!ご、ごめんなさっ」
「あ”ぁ”?!聞こえねぇよ!」
ぶつかったのはガラの悪い男で、ネクタイを見ると二年生のようだった。
とっさに言った僕の謝罪は、声も小さく震えていて相手には届かなかったらしい。
「っすいません、ご、めんなさい」
今にも意識が飛びそうなのを必死で抑えて、僕はもう一度謝罪の言葉を口にした。
「あーあ、いてぇなぁ。これ骨折れたかもしれねぇな。どうしてくれんだよ」
「、、っ」
さっきの軽く当たったあの一瞬で、骨が折れるはずがなかった。
これはお金を巻き上げるための常套句だと、僕でもわかった。
「慰謝料、払ってくれんだよなぁ?」
払えるわけがなかった。あいにくと今はお金を持ち合わせていない。
「、、、」
僕は何もできずに押し黙った。
恐怖のせいか、さらに悪くなった体調のせいか、さっきから体がガクガクと震えているし、目には涙が溜まってきた。
(あぁもう、本当に最悪だ、、、)
いっそ、このまま意識を手放してしまおうかと諦めた時だった。
不意に誰かの声がする。
「お前ら、そこで何してんだ」
声のする方を振り返って、思わず息を飲んだ。
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