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85 秘密ごと/周の不安
望の態度が急に変わった。
あれだけ俺のことを目の敵にしていたくせに、なにを思ったのかまるで仲良しです、と言わんばかりの望の行動に俺はただただ戸惑うことしかできないでいた。靖史さんに言わせるとこういうのは「ファン受けがいい」のだそう。SNSのフォロワーも増えてきているし、たまにはプライベートっぽいのもアップしようって事らしい。俺からしてみたら隠し撮りみたいのはあまりいい気はしないけど、望からあれこれうるさく言われることが激減したことは良しとするべきか。
バンド活動もお陰様で忙しい。昔から当たり前に生活にあるもの、好きなことが仕事になっているからこそ俺は学生の時からほとんど変わらない生活をしていた。周りはゆっくりと変化しているのに、俺だけ変わっていないようにも思える。でも、それに関しては何も焦りも不安もなかった。
竜太の様子がおかしいのに気がついたのは少し前──
忙しくて直接会うことができないけど、なるべく電話で声を聞くようにしていた。「今帰った」「今日は何してた?」「おやすみ」そんな他愛のないちょっとした会話。それでも耳に触れる竜太の控えめなその声が、いつもより元気がないことにすぐに気がつく。竜太が普段通りを装っていることまでわかってしまう。また望が余計なことを言ったのか、俺が何かやらかしたのか…… 思い当たることがないこともない。
学生の頃と違い、常に近くにいて話ができる環境ではなくなった。それでも付き合いの長さに胡座をかいて、思いは通じ合っていると俺は当たり前に思い過ごしていたんだ。
「今日の夜、そっちに行くから──」
やっと取れた貴重な時間。すぐに竜太に会いたくてメッセージを送った。いつもの竜太ならすぐに返事をくれるはず。でもこの時は既読がついただけで返事はなかった。
きっと手がはなせない何かがあって返信ができなかっただけ……たまにはこういうこともあるさと気にしないふりをした。たかがこんなことぐらいでチクリと嫌な気持ちになんかならなくていい。
久しぶりに会った竜太は俺に対してあまりにもそっけなく、今まで見たことのない表情を俺に見せる。怒っているのは明白だった。「ごめん」と思わず謝るも、「何がごめん、なんですか?」なんて言われてしまった。
俺の中で嫌な不安がどんどん膨らむ。それでもそんな想いを悟られたくなく平静を装う。でも、正直言って俺だって竜太に聞きたいことがあるし怒りたい気分だった。
何か食べるかと聞いてくる竜太の言葉にぎくりとした。ついさっきまで俺は望と一緒にいた。圭さんや靖史さんも一緒のスタジオ練習の後、望に呼ばれどういうわけか二人で飯を食う羽目になったんだ。飯の後、竜太のことで話があるなんて言われれば気になってしまうだろ? 俺は言われるがまま、望の後をついて行った。
竜太の住むマンションと目と鼻の先に望は住んでいた。驚く俺に望は「へぇ、彼氏から聞いてなかったんだ?」と含みのある言い方をする。相変わらず俺をイラつかせる天才だな、と聞き流していたら、竜太がこの部屋に来たことがあるのだと望は得意気にそう言った。
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