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3 開かれた傷口
高校2年の3月になり、大和は他の3年生と共に卒業した。
これでようやく一つ重石が取り除かれたと思った矢先のこと。
休日に、俺が一人で街中を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「椎葉?」
ドクリと、心臓が嫌な音を立てる。
忘れるはずがない。この声は。
無視して逃げることを考えかけた時、近くのショーウィンドウに自分の姿と、大和と女の姿が映っているのを見て、諦めて振り向いた。
「……」
「あの……な、椎葉。あの時の……」
大和が重々しく話しかけようとしてきた傍らで、女があっと声を上げる。
「あっ、もしかしてあんた、あの時大和に告白してた人?」
そう言われて、はいともいいえとも言えずに押し黙ると、濃い化粧をした女は続けた。
「大和はね、私の彼氏なの。だからそっちの人間じゃないのよ。分かる?」
「おい、理恵!やめろ」
「えー、いいじゃない。だいたい、男が男を好きとか、ありえないでしょ」
どこか怯えた表情の大和が女を黙らせようとしているが、女は構わずに赤い口を開いて大晴の傷を抉る。
「ありえない」。そんなこと、もう十二分に分かっている。
足元から崩れ落ちそうになるのを堪え、走り出す大晴に大和が何か叫んでいたが、何も聞こえなかった。
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