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お墓参り[8]

【悠Side】 手を合わせ終えて、立ち上がる。 振り返ると、気付いた皐月が袖口で目元を擦った。 また、泣いていたのか……? 思うところがあるのかもしれない。 泣かせているのは、間違いなく俺なんだろう。 それでも今は、辛いだとか、悲しいだとか、負の感情で泣いているわけではないだろう。 俺もお前とここに来られて、しあわせで泣いてしまいそうだよ。 「皐月の涙は綺麗だな…」 目尻に口付けて涙をすくい取ると、皐月は慌てたようにまた目元を擦った。 「綺麗じゃないよ!鼻水垂れてるし」 「大丈夫。皐月の涙は真珠、鼻水はダイヤモンド、さしずめ唾液は水晶…か」 「~~っ、もう!なにばかなこと言ってんだよっ。悠さんのヘンタイ!」 バカだとかヘンタイだとか、散々な言われ様だな。 ほら、リュートもこっちを見て笑って───いや、なんだあの蔑むような視線は。 「皐月、ありがとうな」 入れ替わりで、リュートと夏木が手を合わせる。 出会いってのは不思議なもので…… そもそも夏木は皐月が好きで、告白の為にローズへ皐月を連れてきた───それが総てのはじまりだ。 それが無ければノンケの皐月がゲイバーに訪れる事などは無く。 元々皐月に惚れていた夏木が、今はリュートと想い合っている事実も、生まれはしなかった。 涙を拭いて鼻をかんで、リュートと夏木の背中を見守る瞳は矢鱈に温かくて、 ああ……、なんて愛おしいんだ、と俺の心にも温かなものが染み渡った。 恐らくこれは、皐月から溢れ出る優しさなのだろう。 冷たい墓石に、まだ元気だった頃の、優しかった祖母の笑顔が浮かぶ。 おばあちゃん…。この皐月が、俺の愛する今であり、未来です。 俺はその愛しい肩を抱き寄せて、慌てる皐月の頬に唇を押し当てた。

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