128 / 298
お墓参り[8]
【悠Side】
手を合わせ終えて、立ち上がる。
振り返ると、気付いた皐月が袖口で目元を擦った。
また、泣いていたのか……?
思うところがあるのかもしれない。
泣かせているのは、間違いなく俺なんだろう。
それでも今は、辛いだとか、悲しいだとか、負の感情で泣いているわけではないだろう。
俺もお前とここに来られて、しあわせで泣いてしまいそうだよ。
「皐月の涙は綺麗だな…」
目尻に口付けて涙をすくい取ると、皐月は慌てたようにまた目元を擦った。
「綺麗じゃないよ!鼻水垂れてるし」
「大丈夫。皐月の涙は真珠、鼻水はダイヤモンド、さしずめ唾液は水晶…か」
「~~っ、もう!なにばかなこと言ってんだよっ。悠さんのヘンタイ!」
バカだとかヘンタイだとか、散々な言われ様だな。
ほら、リュートもこっちを見て笑って───いや、なんだあの蔑むような視線は。
「皐月、ありがとうな」
入れ替わりで、リュートと夏木が手を合わせる。
出会いってのは不思議なもので……
そもそも夏木は皐月が好きで、告白の為にローズへ皐月を連れてきた───それが総てのはじまりだ。
それが無ければノンケの皐月がゲイバーに訪れる事などは無く。
元々皐月に惚れていた夏木が、今はリュートと想い合っている事実も、生まれはしなかった。
涙を拭いて鼻をかんで、リュートと夏木の背中を見守る瞳は矢鱈に温かくて、
ああ……、なんて愛おしいんだ、と俺の心にも温かなものが染み渡った。
恐らくこれは、皐月から溢れ出る優しさなのだろう。
冷たい墓石に、まだ元気だった頃の、優しかった祖母の笑顔が浮かぶ。
おばあちゃん…。この皐月が、俺の愛する今であり、未来です。
俺はその愛しい肩を抱き寄せて、慌てる皐月の頬に唇を押し当てた。
ともだちにシェアしよう!