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好きだったんだもん[2]
【奏太Side】
涼太は二番目に優しいお兄ちゃんだ。
功兄は俺のことが可愛くてしょーがなくて、ずっと構って遊んでくれたお兄ちゃん。
ちっちゃな頃、お父さんやお母さんよりも、功兄の膝に座ってたことの方が記憶に強く残ってる。
涼太はマメで気が利いて、困ったことがあると助けを呼ぶ前に駆けつけてくれたお兄ちゃん。
ついでに壮太は、自由人でしょっちゅう遊びに行っちゃうから、ほとんど家にいないお兄ちゃんだった。
未だにあんまり家で会わない。
住んでるとは思うんだけど。
「……俺、功兄に抱かれたかったのかなぁ…?」
スン、と鼻を鳴らしながら尋ねると、涼太に窘めるように名前を呼ばれた。
「でもねっ、ちゅーはしたかった。くっついて、ぎゅってして、ちゅーってしたかったんだ。エッチって、その延長?」
「そうかもね」
涼太の顔が、近づいてくる。
目をぱちくりさせてる間に、唇に柔らかい感触がして、ちゅっと音を残して離れていった。
「ちゅーした?」
「した」
……うん。ちゅーされた。……なんでだ?
「あの……ね?」
「うん」
「男同士って、お尻の穴…舐めたり、指入れたり、アレ突っ込んだりするんだって…。功兄が壮太に言ってた」
「うん」
「……涼太、出来んの?」
「奏太になら、出来るよ」
ちゅ、って……またちゅーされた…。
「功兄に諦めついたら、奏太…。今度は僕を見てくれる?」
「え……と…、俺も、涼太のち○こ、しゃぶったりしなきゃなのかな…?」
「そのうちに、自分から頂戴って言うようになるよ」
「えー……?」
良く…わかんないや。
そもそも俺、皆みたいにエロ本とかAVとかで盛り上がらないもん。
持ってる奴が見せてくれたけど、なんか恥ずかしくてそれどころじゃなかったし。
「じゃあ、そろそろ前に戻るよ。功兄達も帰ってくる頃だろうし」
涼太が俺の体を起こして、後部座席から降りていく。
そして、ドアを閉めるのかなって思ってたら、手を差し出されて……
「奏太、隣に来る?」
潮風が前髪を揺らす。
夕焼けた空を反射する海。
逆光に黒く見える、砂浜の二つの影。
胸がぎゅうっと締め付けられる。
「いたい……」
呟いて俯くと、手首を掴んで車から降ろされた。
腕の中に抱き込まれて、「いたくない、いたくない、痛いのとんでけ」と頭を撫でられる。
「飛んでかない」
「いつか飛んでくよ」
「…涼太って、こんな強引だったっけ?」
「好きな子にはね、強引に行くことにした」
「好きな子……って、弟ですけど…」
見上げると、苦笑いをして肩をすくめる。
いいのかな?兄弟なんだけど。
でも、功兄が連れてきたのが男の人だって言ったら、お母さん喜んだし……。
うちはそう言うのOKな家庭なのかもな。
涼太が開けてくれたドアから、助手席に乗り込んだ。
功兄と一緒に居たかったからついてきた筈なのに、帰りは俺のこと好きな涼太とドライブデート、みたいなことになっちゃうじゃん。
涼太が運転席に乗ってくる。
なんとなく見つめてた俺のほっぺを撫でると、またちゅってしてくる。
ぎゅって目を瞑ると、
「可愛い、奏太」
くすくす笑われた。
これは、どういう可愛いだ?
愛しいか?それとも小動物的扱いか?
「そんな顔、僕以外の前では見せないように」
…多分、どうやら、前者の意味らしい。
「ほら、功兄たちが戻ってくるから、奏太。赤い顔元に戻して」
涼太が俺を通り越して階段の方を指さす。
「そんな自在に戻せるかっ、ばか!」
俺は窓を開けて、車内に潮風を呼び込んだ。
収まらない火照りは夕陽が反射した赤色のフリをして。
階段を上り終えた功兄とリュートさんに手を振ったのだった。
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『もう一人の息子』完
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