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好きだったんだもん[1]

【奏太Side】 泊まってって欲しかったのに、明日は仕事だからってもう帰る、なんて功兄は言う。 だからせめて最後まで一緒にいようと、急行の駅まで送るって言う涼太について、車に乗り込んだ。 運転席に涼太。その後ろにリュートさん。左側には功兄。だから俺は、2人の間に挿まって。 2人の邪魔をしたかったわけじゃない。 2人と一緒に居たかったんだ。 車が海岸を走る。 浜辺に出られる階段の近くで、功兄が車を停めるように言った。 「やっべー、海久しぶり~っ」 リュートさんを連れて、砂浜に下りていく。 「功太っ、靴に砂が入っちゃう」 「後で掃えば大丈夫だよ」 手を繋いで、楽しそう。 「う~~~っ」 なんだか見ていられなくて、後部座席にうつ伏せに寝転んだ。 リュートさんも好き。ちゃんと好き。 ちゃんと、好き……だもん…。 「う~~~っ」 悶えてると、ドアが開いて車内に潮風が吹き込んでくる。 頭を持ち上げられて、腰を下ろした涼太の膝の上に乗せられた。 「諦め…ついた?」 変な質問。 「なんだよ、諦めってーっ」 「ちゃんと失恋、出来た?」 「っ───余計なお世話だっ!」 物心つく前から、好きだったんだもん。 親よりも、誰よりも、一番可愛がってくれた。 カッコよくて優しくて、自慢のお兄ちゃんだった。 ずっと、好きだったんだもん。 ずっとずっと、一緒にいたかったのに、東京なんかで就職して、恋人まで作っちゃって……… 「…ふっ……くっ……う~~っ」 恋なのかどうなのか俺本人だって分かってないのに、涼太はそれを失恋って言う。 いじわるだ。 俺が兄弟を好きなヘンタイだから、そんな風にいじわる言うんだ。 優しい手つきで頭を撫でてくる。 チノパンに涙が滲みこんでくのに、文句も言わない。 「功兄のばか~っ」 「……うん。功兄は馬鹿だ」 涼太は珍しく悪態をついて、 「ばかじゃないもんっ」と見上げた俺の涙をハンカチで拭ってくれた。

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