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ごめんなさい[4]

【夏木Side】 「親の前でケンカしちゃったね」 耳に唇が当たるスレスレで、内緒話みたいにして伝える。 「…大人げなくて、ごめんなさい」 真っ直ぐに瞳を見つめられた。 顔を傾けて、唇を押し当てる。 「俺の方こそ、分かってなくてごめんなさい。リュートさん、俺のことそんな前から好きでいてくれたんだね」 「うん…」 顔が赤く染まる。 自分で言いだしたくせに、恥ずかしいのかな? 「そう言えば、広川たちも親の前でケンカしたんだってさ」 「皐月くんも?」 「で、仲直りして、大切にしますって誓い合ったんだってさ」 部屋の中に聞こえないよう、囁き声で交し合う。 「俺も、大切にするね。なるべく泣かせないようにするし、両手放しで幸せって言ってもらえるよう、頑張る」 もう、簡単に諦めようとなんて絶対にしない。 リュートさんが辿り着いてくれた答えのように、例え運命が2人を切り裂こうとしたとしても、みっともなくても絶対別れないよう、縋りついてやる。 …なんつって。ちょっと中二病チックだったか? 「僕も、仕事から帰ってきた功太が、僕の顔見てホッと出来るように頑張る。それから、功太が疲れてたら、僕が上に乗って動いてあげる」 ちょっと変わった宣言が聞こえたと思ったら、頬にチュッと唇の感触。 そっちも、エロいこと覚えたばっかの中二みたいな答えだし……。 「えー…、リュートさん、人が真面目に話してんのに下ネタ~?」 ププッと吹き出すと、心外だったらしく頬を膨らませる。 「下ネタじゃない!…けど、シたくないならもう…いいです…」 「あっ、ごめんごめん、ウソウソ!その際は、よろしくお願いします」 「……承りました」 頭を下げた正面で、リュートさんも俺に向けてお辞儀する。 そして2人顔を見合わせて、なんだか嬉しくなって笑ってしまった。 「話終わった?」 中から顔を覗かせた奏太が、頷いてみせると廊下に出てきて、俺とリュートさんの手を掴む。 「じゃあ、部屋に戻ろ。お母さんが梨剥いてくれたんだ。リュートさんの持ってきてくれた巨峰もあるよ!」 「あっ、僕お手伝いもしないで…」 「いーのいーの。涼太が手伝ってたから。功兄とリュートさんは半分お客さんなんだから、今日はもてなされてていいんだって。でも、次来た時は完全うちの子だからこき使うんだって、お母さん言ってたよ」 奏太の言葉に、リュートさんは心底嬉しそうな顔をして笑う。 うちの親なんかで、こんなに喜んでもらえるんだもんな。 本当はずっと、「お父さん」「お母さん」って甘えたかったんだろう。 実の母親は亡くなっていて、父親は誰なのかすら分からない。 育ててくれたお祖母さんも小学生の頃に…だっけ。 香島さんのお母さんも、あんな態度だったしな……。 俺より母さんの方がいいのかよ、なんて、拗ねてごめんね、リュートさん。 俺の親で良ければ、何度だって一緒に会いに来よう。 俺だけじゃなくて、親も弟達も、みんなで家族になろう。 リュートさん。 一緒に幸せになろうね。

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