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いつもの朝の風景[1]
「皐月は可愛いなぁ」
絡ませ合っていた唇を離して、悠さんがしみじみと言った。
もうすぐ仕事に行かなくちゃいけない時間だから、ほんとはこんな事をしてる場合じゃなくて…。
「なんですか?朝からヘンタイですか?」
ハッと正気に戻れば色々恥ずかしくなって、つい可愛くない態度を取ってしまう。
だけど悠さんは咎めたりせずに、頭を抱き寄せて鼻の頭にチューッとキスしてくる。
「表を一人で歩かせるの心配だなあ」
また何か言い出した。
「何言ってんの。俺、悠さんみたいに四六時中欲情してるわけじゃないもん。そういう時は俺、ふっつーに男なの」
だから、男からエロい目で見られることなんかないんだ、と伝えれば悠さんは納得いかないと眉を顰める。
「お前こそ何を言ってるんだ。皐月は発情してなくてもいつでも可愛いぞ」
「発じょっ……は、してねーよ!」
「それでも、警戒するに越した事無いだろう」
バカなんだ…。この人は、恋は盲目とか 痘痕もエクボとかを地で行く、可哀想な人なんだ…。
「……わかりました。警戒…するようにするけど」
仕方なしに頷いてみせるけど、…俺がそんなじゃあの人はどうなっちゃうんだよ、と思い至る。
「でもさ、俺よりリュートさんの方が心配。前にリュートさんに叩かれた時、叩かれたショックよりリュートさんの力の無さにビビったもん。手、ケガしてんじゃないか、とかさ」
「ああ、あいつは昔からひ弱だったからな」
「リュートさん超綺麗で可愛いし、あんなに力弱かったら、男だけじゃなくて女の人にだって襲われちゃいそう」
「……綺麗で可愛いか?」
「超だよ!もう、超キレかわ!」
また納得行かない顔して。どうして悠さんはリュートさんに厳しいかな。
「まあ、実際あったからな…。子供の頃の話だが」
そうだよ。リュートさん、子供の頃に男にも女にも襲われたんだって、前に悠さんが教えてくれたんじゃん。
「リュートさんこそ、警戒するに越したことないと思うんだけど!」
「そうだな。でもまあ、リュートのことは夏木が何とかするだろ。俺は皐月が心配なの」
……あ、戻っちゃった。
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